生産性ってなんなのさ

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東京医大の女子受験生に対する減点。

女性医師は生産性が低い(医師免許を取得しても、結婚・妊娠・出産を機に診療をやめる人がいる、産休育休や時短勤務でシフトが組みにくい、周産期に身体的負担の大きい勤務をさせにくいなど)という理由から、なんとなく「仕方ないよね」という雰囲気が漂う医療界。

本当にこれでいいのかな。

病院内科医(ホスピタリスト)に関しては、女性医師のほうが男性医師よりも受け持ち患者の死亡率が低かったというハーバードの津川先生たちの論文がある。海外では医師は女性の仕事、という認識の国もある。職業の適性から見ると、医師という仕事は必ずしも男性に優位性があるわけではない。それでも日本で男性医師が優先されるのは、そのハード(ブラック)な就労環境にあると指摘する意見が多い。

しかし、これは医大や医療機関運営者だけの問題ではない

サービス残業に依存せざるを得ない人材不足(偏在)と診療報酬体系は政策的介入が必要だと思うが、同時に患者の不適切な受療行動も医療現場を「ブラック」化させる要因になっていると思う。医師の疲弊は患者の不満と医療の質の低下につながり、悪循環を生む。

そして「家事や育児は女性の仕事」という日本の伝統的な価値観も無視できないと思う。妊娠・出産は女性にしかできないが、育児は男性にもできる。しかし「イクメン」という言葉は市民権を得たものの、日本における男性の育児休業取得率は100人に3人にすぎない。

つまり、これはたぶん医療界だけの問題ではない。

今朝の日経によると、大卒女性の就業率は74.1%と、男性より約20%も低い。OECD加盟国の中でも最低レベルだ。
超高齢化に伴い生産人口は減少していく。海外からの労働力の輸入も重要だろう。しかし、国内の潜在力を生かすことができない国に、果たして外国人人材を生かすことができるのだろうか。

「女性の生産性が低い」ことが問題なのではない。「女性が生産性を発揮できない」ことが問題なのだ。
そして女性だけでなく、その人の身体的・社会的コンディションによらず、その人が実力を発揮できる環境を作ることは、僕らの未来を豊かなものにするための重要な前提条件であるはずだ。

僕らの法人には、産休・育休を使いながらも、在宅主治医や看護師として診療を継続してくれている人がたくさんいる。時短勤務しながら院長を務めてくれている人も、育児や介護のために時間外勤務はしないという条件でチームで実力を発揮してくれている人もいる。迷った時に立ち止まり、まとまった休暇をとる人もいる。
そういう人こそ困っている人の気持ちがわかるし、時間あたりに患者さんに提供できる価値は非常に大きい。何より医師自身が充実した生活が送れていなければ他の誰かの幸せを支えることなどできない。

これから先もマッチョな男性医師だけでハードな医療現場を守り続けるのであれば、東京医大は東京男子医大にしてしまえばいい。しかし、それは医師にとっても患者にとっても不幸な結論だと思う。

ソーシャルインクルージョン、働き方改革、キャッチーなスローガンも悪くない。しかし、一番大切なのは、一人ひとりが「本当に豊かな社会とは何か」ということについて、ゆっくりと立ち止まって考えてみることなのかもしれない。

東京駅の貨物用エレベータに貼られたテプラを見ながら、そんなことを思った土曜日の午後。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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