【フランス視察記】フランスの「医療版Uber」が目指すもの

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

●年間300万往診を目指す医療版Uber
●混合診療による「快適な緊急往診」を提供
●患者、医師双方の支持で急成長中

 

ローンチ2カ月で月300件の往診に対応

今日は複数のメディテック企業を経営するフランスの敏腕プロジェクトコンセプターと意見交換の機会をいただきました。

彼の最新のスタートアップはパリ市内で先進的な往診サービスを提供する、いわば医療版Uber。
利用者は基本情報を登録すれば、Uberでドライバーを呼ぶように、スマホで医師に往診を依頼することができます。

今年の1月にローンチしてからまだ2カ月ですが、すでに100名のドクターがパリ市内で同社の往診サービスに従事、毎日300件の往診に対応しているとのこと。将来的にはフランス国内だけで年間で300万件のコンサルテーションに対応、同様のサービスを海外に拡げていく予定とのことでした。
900万都市東京の年間救急搬送件数が約80万件であることを考えると、人口300万のパリで果たしてそんなにニーズがあるのかとも思えましたが、利用者は急増し、登録医師数も来月にはなんと900名まで増える見通しと。まさにブレイク直前という状況です。

往診サービスという点ではSOSメドサンと同じですが、同社の最大の相違点は「セクター2(混合診療)」であるということ、そしてNPOではなく営利法人であるということ。
利用者はセクター1(完全保険診療)であるSOSメドサンの2倍近い費用(自己負担は2倍以上)を支払う必要があります。しかしそのかわりに、彼の表現を借りれば「快適な緊急往診」を受けることができます。

SOSメドサンは、医師を選ぶことはできません。また、提供される医療サービスも基本的にはプライマリケアが中心です。緊急性がなければ優先順位が低くなり長時間待たされることもあります。また年間600万件もの電話で、SOSメドサンのコールセンターはほぼパンク状態、スムーズに往診を依頼することが難しくなりつつあります。

一方、同社の往診サービスは、総合診療医以外にも、各科の専門医の診療を依頼することもできます。初診の医師は位置情報から検索されますが、気に入った医師がいれば、2回目以降は、その医師を指名することもできます。簡単なアプリの操作(わずか4ステップ)で、往診を依頼することができ、つながらない電話にいら立つことも、長時間待たされることもありません。

利用者もサービスを支える医師も急増しているという事実は、単にビジネスとしてのプラットフォームが優れている、というだけではなく、そこに潜在的に大きなニーズがあったということ。多くのパリ市民が、より快適な医療アクセスを手に入れたという事実は本当に素晴らしいことだと思いました。

 

その「評価システム」は妥当か?

しかし同時に、若干の違和感を覚えました。

彼は利用者を患者(Patients)ではなく顧客(Clients)、診察をPracticeではなくConsultationと表現します。アプリの最初の画面では「SAMUにコールすべき緊急事態ではありませんか?」と、免責ともとれる認証ステップがあり、応急医療的なニーズというよりは、サービス業としてのコンビニエント&コンフォートな医療のあり方を追求しようとしているように見えました。顧客はUberと同様、サービス利用後に医師の診療を「★」で評価することができます。彼は、これこそが診療品質向上のキーだと考えているようでしたが、果たしてその評価の尺度は、医療専門家としての判断の正当性となるのでしょうか?

SOSメドサンは公共医療の一部として、社会全体のニーズに対し、その必要度に応じて、できるだけ「公平」に対応しようとしています。一方、同社のサービスは、追加費用の支払いと引き換えに、便利かつ快適な医療アクセスを保証します。いわば個々の顧客のデマンドに応えるもの。主たる顧客層はUberを使いこなす世代です。最近はその子供や親世代に拡がってきているとのことですが、元気な現役世代に対して、本当に往診が必要なケースはそんなに多いのでしょうか? 完全自費ならいいと思いますが、公共の財源から、必要性の低い医療に対する支出が生じることは、果たして社会全体から見たときに最適なモデルと言えるのでしょうか?

医師にサービス業としての顧客対応を求めるスキームは、日本では医師から忌避されそうな気がしますが、パリで医師の確保に大成功しているのには、背景に医師の就労制限というフランス独自の事情があるようです。彼によれば、1日3件程度の往診で、月5000ユーロ(約70万円)の月収になるとのこと。窮屈な勤務医よりも、リスクを伴う開業よりも、時間的・経済的にフリーになれるという魅力は大きいようです。

彼はUberを引き合いに出し、既存の競争相手が何を言おうと、支持されるモデルは発展する、と断言していました。
しかし、このパリの新しいモデルは、医療保険という公共財源を収入に織り込もうとしている時点で、Uberとは決定的に異なります。
日本でも最近、往診サービスが出てきていますが、保険診療として行うのであれば、費用負担者への説明責任を果たせるものでなければならないと僕は考えています。
一部の人たちの利便性のために、外来よりも高額な往診というサービスが濫用される事態は避けなければなりません。
パリの新しいモデルは、医師にとっても患者にとってもWIN WINと言えるのかもしれませんが、公共財源(費用負担者)にとっては、必ずしもベストアンサーではないようにも感じました。

合理的でシンプルなこのビジネスモデルには学ぶべき点がたくさんあり、本当に有意義な時間となりました。SOSメドサンの診療を、顧客サービスという視点から再評価することもできました。
まさに生まれたてのスタートアップ企業の経営者とこのような有意義な機会をセッティングして下さったNaoko Okudaさんの目利きの力は本当に素晴らしい!

この医療版Uberモデルの今後の展開に注視していきたいと思います。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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