【フランス視察記】パリの民間往診サービスとは

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

●最短5分で医師が到着! パリの民間往診サービス。
●常時50人の医師がパリ市内を巡回。年間40万件の往診に対応。
●高度な専門性に支えられた150人の医師による自律型組織。

1966年に創設され、以来フランスで50年以上にわたって24時間の往診サービスを提供する非営利医療機関、SOS-MEDECINS(SOSメドサン)。
今回の視察旅行の最大の目的地です。

創設以来発展を続け、現在全仏に63組織を展開、パリだけでも年間40万件の往診に対応、患者からの往診依頼に平均1時間以内、緊急時は最短5分で対応することも可能というこの組織の秘密を、今回、セクレター・ジェネラル(日本のNPO法人だと理事に相当?)の中でも統括責任者(理事長に相当?)であるセルジュ・スマジャ医師にご案内いただくことができました。
その一部をご紹介します。

■SOSメドサンの往診サービスは初診対応が中心

SOSメドサンの往診サービスは、日本の在宅医療とは異なり、文字通りの「往診」。対応患者の大部分は初診です。
日本の訪問診療のように継続的・計画的な医学管理がベースにあるわけではなく、医師たちは、自らのフィジカルアセスメント能力を頼りに、初診患者を相手に診断と治療を行います。その対象は小児から高齢者まで、社会的課題が中心と思われるケースもあれば、急性冠疾患やアナフィラキシーショックなどの対応が必要になることもあります。少ない情報とわずかな診断デバイスだけで最適な対応をしていくためには、相応の臨床能力が求められるはずです。

■150人の医師団はすべて「アソシエ」

パリのSOSメドサンには150人の医師が「アソシエ」として登録しています。
アソシエとは、その組織のいわば「株主」。雇用される立場ではありません。NPOのサービスプラットフォームを利用しながら、自分が働きたいときに、働きたいだけ働く、という自由なワークスタイルです。具体的には、常勤医師として給与をもらうのではなく、一人で診療をして、診療収入を得ながら、その一部(診療収入の10~12%程度の金額)をプラットフォーム利用料(コールセンターやシステムなどの組織運営コスト)として組織に支払う、という形になっています。勤務形態としてはフリーターに近い形でしょうか。車載の医療材料なども組織から提供されるのではなく、個々の医師が組織から購入することになります。
アソシエの医師たちは診療を担当する時間帯には無線をONにし、医療器材や医薬品を搭載した自家用車でパリ市内を流します。近くで往診の依頼があれば、コールセンターから医師に連絡が入り、医師は患者の自宅に向かいます。ちなみに、勤務時間中は、コールセンターからの診療依頼を断ること、患者を選択することなどは原則としてできないとのこと。

■診療品質の管理

往診は訪問診療と同じく、現場ではソロプラクティス。診療品質の管理が課題になります。SOSメドサンでもこの部分にかなり力を入れています。
このアソシエになるためには、3年間の試用期間を経なければなりません。そしてアソシエになった後も、フォーマシオンと呼ばれる独自の生涯教育プログラムに参加し続けることが求められます。往診を受けた患者からのフィードバックが直接入ることもあります。
僕がとても重要だと思ったのは、全員で「会則」を創り、それをしっかり守っていく、ということ。前出の往診依頼を断らない・患者を選ばない、というのもルールの1つ。会則は2か月に一度ずつの会議で見直しを行うそうですが、この会議では、評価の悪い医師に対する個別指導などについても決定するそうです。
医師たちの間には一切のヒエラルキーがなく、高度な専門性とプロフェッショナル・オートノミーによって支えられた自律型組織だということがわかりました。ちなみに大部分のアソシエが、救急専門医または総合診療医+救急認定医。スマジャ医師自身も元SAMU出身の救急専門医だそうです。

■SOSメドサンのコールセンターのしくみ

(1)オペレータ
まずコールセンターに電話がかかってきます。最初の電話をとるのはオペレータ。患者から基本情報の聴取と基本的な問診を行います。
この問診はトリアージプロトコールを兼ねたエクスパートシステムとなっており、システムに従って問診を進めると、医師の判断が必要なケースがおのずと明確になります。(なお、すべてのオペレータは業務に必要な医学知識の講習とテストを受けています)
時にSAMUや消防庁から、SOSメドサンに対応の依頼が入ることもあるそうです。

(2)コールセンター医師
コールセンター内には医師が常駐しており、医師の判断が必要な場合はドクターに電話が回され、そこで、往診サービスで対応可能なのか、SAMUや救急車による病院受診を指示すべきかを判断します。搬送や受診が必要な場合には、接続先の確保まで行います。
ただし、スマジャ医師は、トリアージはSAMUの仕事、自分たちの仕事は往診すること、とはっきりと言い切っておられました。
患者が往診を依頼しているのだから、なるべく往診で対応する、というのが原則だそうです。

(3)ディスパッチャー
往診の依頼があれば、ディスパッチャーが患者宅の近くにいる医師に無線で往診を依頼します。
SOSメドサンのオリジナルの往診管理ソフトは2つの画面で構成されており、一つは地図上(患者宅と医師の現在の所在地が表示)、もう一つは入ってくるコールの緊急性を判断し、優先順位をつけて並べていくというもの。ディスパッチャーは、患者の住所と優先順位、医師の所在地を見ながら、往診がスムーズに提供されるよう調整をしていきます。
ただ、非常に忙しい時には、優先順位の低いケースは数時間待たせてしまうこともあるとのこと。そのような場合は、コールセンター医師から体調の悪化がないか、などの状況確認の連絡を入れます。

■市民や医師たちのSOSメドサンに対する評価

政府のキャンペーンなどもあり、救急医療サービスは公共財産である、という認識が広がっており、SAMUや救急車を簡単に呼ぶべきではない、という風潮の中、SOSメドサンの往診サービスは、市民にとって重要な選択肢の1つになっていることは間違いありません。
パリだけで年間40万件というSOSメドサンの対応件数は、東京消防庁の年間全搬送件数の50%に相当します。パリの救急搬送が少ないのは、SAMUのトリアージ機能に加え、代替選択肢としての往診サービスが充実しているからこそ、ともいえるかもしれません。
SOSメドサンは「セクター1」と呼ばれる保険診療のみを行う医療機関。混合診療が珍しくないフランスにおいては、かなり「まじめ」な存在です。
往診の診療報酬は日本よりやや安く、基本的には35~84ユーロ(時間帯により異なる)。ここに検査や診察所要時間、小児加算などがつく形になっています。アソシエの医師たちは1回の勤務で20件近い往診をこなすことになり、ここから10~12%のプラットフォーム利用料を支払ったとしても、相応の収入は得られているということになります。
当初は病院に所属しない医師たちに、医師会などの評価も微妙だったそうですが、近年、確実に実績を出してきていること、また特に高齢者の在宅支援という観点から、かかりつけ医が対応できない往診ニーズをカバーする、行政・介護サービスと連携し社会的入院を抑制するなどの役割を担うようになってきていることから、評価は見直されつつあるそうです。
また、医師にとっても、自由なワークスタイルに加え、社会的課題解決に貢献できることなどから、若い医師たちもSOSメドサンでの勤務を希望するようになってきており、スマジュ医師はなんと新卒採用にも力をいれているとおっしゃっていました。

■個人的な思い

僕は日本の高齢者医療の現状を改善する1つの方法が、高齢者に対し、急変時・増悪時の「往診」という選択肢を保証することだと考えています。
普段、訪問診療を受けていない人でも、困った時に医師が往診できる体制が創れれば、救急搬送も不要な入院も減らせると思いますし、何よりも社会的課題にアウトリーチすることができます。今回の視察を通じて、これからの取り組みに向けて、たくさんのヒントをいただくことができました。また、診療品質の管理や医師会とのリレーションなど、抱える課題はほぼ同様だということもわかりました。

現在、年間12万件の訪問診療・1万件の往診をしている私たちですが、40万件という膨大な往診件数にはただただ圧倒されました。
組織のあり方そのものから見直しをしていく必要があるのかもしれません。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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