【中国視察記】中国の認知症ケア、その先端へ

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今日は、明後日のシンポジウムのリハーサルを兼ねて、上海を中心に施設介護事業を展開する「紅日グループ」の2つの高齢者施設を視察させていただいた。

紅日グループは、高品質な高齢者ケアを提供することで知られる優良企業。
ケアの質はその高い稼働率として、そして政府幹部の家族などVIPが入居されていることにも表れている。実は昨年も視察させていただいているが、今回は、その好業績を支える「経営」にフォーカスして学ばせていただいた。

高い入居者満足度の礎になっているのは、高い職員満足度。
紅日は職員を「私たちの宝」と表現し、自分の家族のように大切にしている。
自らのサービスの重心は、高齢者施設という「箱」ではなく、そこで提供される「ヒューマンサポート」であると明確に位置づけ、そのヒューマンサポートを担当する職員こそが、企業競争力のコアであると定義している。

中国では、介護専門職は社会的地位も給与レベルも高くない。従って、上海市における介護の主たる担い手は都市住民ではなく、地方出身者となっている。彼らの多くは高等教育を受けておらず、生活レベルも、そして自己肯定感も低い。

紅日では、不安定な生活を強いられてきた職員たちに、まずは衣食住(住居+三食+制服)を保証する。女性たちには化粧品も提供し、アピアランスの大切さも伝える。そして、しっかりとした教育・研修を行い、介護という仕事の社会的使命と重要性を徹底的に理解してもらう。ホスピタリティの意味を理解するために、五つ星ホテルでの滞在体験などのプログラムも含まれている。介護の仕事が始まると毎正月の帰省などが難しくなるが、地方で離れて暮らす家族に対するケアも忘れない。
このような紅日との関わりを通じて、職員たちは自己肯定感を取り戻していく。

紅日は職員に対する深い愛情の一方で、仕事のクオリティに対する評価は厳しい。社長自ら現場をチェックし、不完全な仕事に対してはフィードバックが行われる。一方で業務に誠実・確実に取り組む職員は、少しずつ上のランクに進んでいく。そして、職員たちは会社が提供する安定した生活基盤の上で、自らの業務の目的を理解し、目の前の入居者によりよいケアを提供しようと努力を続ける。

故郷の家族のもとを離れ、上海で働きながら暮らしている職員たちは、会社と職員同士とのあたかも大きな家族のような関係性を築いている(日本では会社や同僚との関係性は疎なほうがよいと考える人も少なくないが、ここには中国の「家族」に対する考え方も反映されているように思う)。そして介護専門職として成長しながら、地元の家族に十分な仕送りができる給与を受け取っている。

離職率が高いと言われる介護業界において、紅日の年間離職率は1%未満、離職した職員の中には復職するものも少なくないとのこと。介護職の確保が難しい中国において、紅日は優秀な人材を豊富に抱え、新規の施設展開においても職員の確保が課題になることはないという。

昨年、日本(参議院議員会館)で陳社長が講演の中で「入居者よりも職員の幸せをまず考える」と話されたとき、それは優先順位が逆ではないか、と指摘する日本の専門家もいた。しかし、紅日には、入居者を幸せにするためには、まず職員が幸せである必要がある、という明確なポリシーがある。そして、高い職員満足度は、結果として、高い入居者満足度につながっている。

ケアの技術面では、日本と中国には文化の違いもあるため一概に日本のほうが進んでいる、というような単純比較はできないものの、正直、少し発展途上の感は否めない。しかし紅日では、日本から認知症ケアの専門家を招聘し、日本のケアの良いところと中国の歴史・文化的特性をうまく融合した新しいケアを創り出そうと積極的に努力している。
また、職員の能力評価や、外部での取り組みの発表など、職員の自己肯定感を高めるための仕組みづくりに加え、介護の仕事に対する社会的評価を高めるための努力も続けている。

職員とその家族を幸せにし、患者を幸せにし、そしてケアの質そのものを改善することで社会全体の幸せに貢献する。
医療機関を経営する僕自身にとって、紅日のトライアルは1つのロールモデルとなりそうだ。

今回のシンポジウムと視察を企画していただいた日中福祉プランニングの王さんに感謝申し上げます。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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