科学の現場と場外乱闘

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非常に残念な結果になってしまった。

 

しかし「名誉棄損の裁判」なのだから判決としては仕方ないだろう。
「残念」というのは判決結果ではなくて、ワクチンの議論があらぬ方面で注目されてしまったことに対してだ。

ーーーBuzzFeedの記事より

【最大の争点】となったのは、複数のマウスの脳の画像データから、池田教授が都合のいい画像データを選び出した【事実があったかどうか】だ。

ーーー引用終わり(強調は筆者)

 

という記述があるが疑問だ。
なぜなら

 

ーーー「刑法第二百三十条」より引用

第二百三十条

第一項:公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、【その事実の有無にかかわらず】、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

第二項:死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

ーーー引用終わり(強調は筆者)

 

からだ。

つまり「事実であったかどうか」は主要な争点ではないはずなのだ。

医学研究として正しい方法だったか否かが重要だ、と訴えたいのだろうし、それは医師として同意する。しかしそれは我々の主観でしかないのではなかろうか。

実際に名誉毀損の司法の場で「科学的正当性が最大の争点になっていたか否か」こそ私は知りたい。つまり「科学的に不適切だったからいかなる批判を受けるのも致し方ない」という結果を導けるのか?ということだ。

もしそうなら日本の司法も大したものだと感服する。

話を戻すが、今回の裁判は、研究方法の科学的正当性を争ったものではない。「精査もせず『捏造』呼ばわりされた。メディアを通して現役教授が侮辱された。そのせいで失職したら困る」という訴えなのだ。
「公の前で侮辱された」という「名誉棄損の裁判」が、いつの間にか「HPVワクチンの安全性を訴えるための裁判」と錯覚されていた。
というより「誰かがそう錯覚させていた」のだ。

確かに判決内容を読むと、研究の発表までの経緯には科学的な疑問点が上がってくるだろう。厚労省もこれについては「不適切な発表」と見解を出しているし、「このマウスでそのことが全て説明できるという状況ではありませんでした」というのは発表した研究者本人の発言だ。つまり本研究には科学的なより深い検証が必要であることは自他共に認めているわけだ。
ただしこれもまた「名誉毀損」についてはあまり関係ない事柄。

ごく少ない、一辺倒な情報を持ち上げ、国民全体を混乱させたマスコミ。
一方で、研究が「捏造であると決めつけ」「研究者の名誉を毀損した」と判決を受けてしまったメディア。
手玉に取られる厚労省。
本筋そっちのけで、主観に対して主観で語る応酬。

ワクチン論争は本来の現場である「科学」の外、いわば「場外乱闘」が続いているのが現状だ。

科学者として「エビデンスレベルが高いかどうか」「科学的な方法として適切か否か」ばかり目に行ってしまうのが我々医師の常だろう。
それは正論なのだが、科学的な正論だけでは司法や医療情報の流通は解決できないことも多いと考えている。
これからも「正しい医療情報の流通のさせ方」について考えていきたい。


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山内病院付属藤沢スマートタウンクリニック 小児科部長
日本小児科学会 小児科専門医
「正しい医療情報のための連携会」Facebookグループ会長

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