【上海徇行記2019③】どちらが先進か、は関係ない

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

「高齢者介護事業は単なるビジネスではない。それは文化であり、哲学だ。」

上海市社会福祉センター所長・上海市上海福祉事業協会会長の徐后華氏は、フォーラムのキーノートスピーチでこう発言された。

彼は昨日、上海市政府民政局で意見交換させていただいた上海側メンバーの一人。丹野さんに対し「当事者として発言される勇敢さに敬意を表する」とおっしゃった方だ。昨日の意見交換が、彼のスピーチに影響を与えたのかどうかはわからないが、昨年までとは違う空気を感じた。

加藤さんに続いて登壇した丹野さんは、当事者として、発症から確定診断、そして診断後の不安と絶望感を共有してくれた。
「不治の恐ろしい病」になってしまったという恐怖、そして「なにもできない人」「助けが必要な人」とレッテルを貼られ、生活や人生を奪われていく感覚。抗認知症薬についても、患者の立場でリアリティのある治療体験を教えてくれた。

認知症の人に本当に必要なのは「パートナー」。
今日を境に、認知症の当事者も参画し、一緒に認知症の人にも優しい社会を一緒に作っていきましょう!
私も認知症ですが、認知症の仲間を支えていきたいと思っている。皆さんも是非、人ごとではなく、自分ごととして、一緒に取り組んでほしい。

丹野さんの呼びかけに、会場は大きな拍手に包まれた。

このフォーラムの参加者たちは、行政や大手事業者など、社会に影響力のある人たち。実際、2年前のこのフォーラムをきっかけに、上海での「失智症(痴呆症)」という呼称が「認知症」に変わった。

昨年はケアニンの上映とVR認知症による当事者体験を通じて、BPSDをどう理解すべきかを一緒に考えた。そして今年、ケアニンの加藤さん、そして当事者の丹野さん、両面から認知症ケアに対するフィロソフィを発信した。

「介護事業は単なるビジネスではない。それは文化であり、哲学だ。」
キーマンがこう発言したことの意味は大きいし、日本チームはその思考に応えることができたと思う。そして、中国のケアは、これから質的にも大きく成長していくのだと思う。

超高齢化で先行する日本。そして圧倒的な高齢者の絶対数を有する中国。制度などの違いはあるが、それぞれのフィールドでたくさんの試行錯誤を重ねること、そしてその成果を共有することの意味は大きい。

そして、日本と中国をつなぎ、このような影響力のある学び合いの場を定期開催している王さんの企画力と実行力は本当に素晴らしいと思う。

僕も三年連続で上海でのフォーラムと視察に参加させていただき、中国のケアの急速な進化を目の当たりにしてきた。その中から、日本では知ることが難しい新しい視点や思想、そして日本よりも進んでいる領域が多く存在することに気づくことができた。それは自分の専門職としてのあり方にも、事業運営者としての考え方に影響を与えている。

日本の専門職も、「日本は進んでいるから」という思い込みを捨てて、一度、海外の取り組みを見てみることをお勧めしたい。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。