【上海徇行記2019①】9073

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

今年も中国に来ました。
上海での日中スイス介護実践対話フォーラム、安徽省阜陽市での日中介護交流シンポジウムに参加するためです。
王青さんのスーパーコーディネートによる現地での医療や介護、地域包括ケアの取り組みも視察させていただいています。

 

地域ケアの基本は複合型多機能拠点。

 

上海のみならず、最近のアジアの高齢者ケアは、日本のように縦割りの医療・介護サービスを後から連携させる、というのではなく、最初から複合型サービス拠点を計画的に配置していく方向にあるように感じる。
このコンセプト自体はとてもよいと思う。

 

中国の高齢者福祉のコンセプトは「9073」。これは高齢者の90%は在宅自立生活、7%は在宅介護、3%は施設介護で対応するということを意味する。

 

今日の午前中は、上海の2つの先進的とされる複合型サービス拠点を見学させていただいた。いずれも地域の高齢者をできるだけ長く自宅でケアしていくことを目的とし、さまざまな機能を地域住民に一体的に提供している。

 

■訪問介護・通所介護・短期入所・長期入所を一体運営するコンパクトな複合サービス拠点

 

最初に訪問したのは「上海愛照護」。高齢者ケアを総合的に提供するコンパクトな複合サービス拠点だ。現在、上海を中心に中国全土に70施設を展開する。
運営会社はもともとIT企業。ICTによる統合的情報管理やカメラ・赤外線センサーなどによる見守りなど、ケアの現場に積極的にテクノロジーを導入していることで知られている。

リハビリ機器はマシン含めしっかりしたものが入っていた

訪問介護・通所介護・短期入所(最大で3か月まで)・長期入所の4つがおもな役割だが、介護用ベッドの福祉用具レンタルも実施している。機能としては、訪問・通所・泊まりを一体的に提供する日本の「小規模多機能」に近いと思ったが、実際には異なる。

赤外線の体動センサー

この拠点の訪問介護の対象者は約400名、通所介護の利用者は非常に少ない。通所・泊まりと同じスタッフが対応する、というような小規模の強みはない。

 

また、短期入所は、小規模多機能の「泊まり」のような機能としても使えるが、主な役割は退院後のリハビリテーションなど、機能としては老健に近い。全24床のうち、12床は老健的ニーズに対応している。残る24床はレスパイトなどでフレキシブルに対応できるようになっている。
居室(2~4床室)は共有スペースの周囲に配置されている。その設えは、最近の日本の特養の多床室に近い。大部屋という感じではなく、一部壁などが設置され、少しプライバシーがある。

 

長期入所は、認知症ケアの専門施設として認定されている。基本的には終身入所となる。ここも24床を有するが実際の稼働率は50%。1か月8500元という月額入居費は普通の高齢者の年金の約2倍。やはり介護保険制度がない全額自費という前提では、高額な入居費を終身払い続けられる人は限られてしまう。

 

■コミュニティケアをコンセプトとした総合的な地域包括支援拠点

 

次に訪問したのは「虹梅街道高齢者総合サービスセンター」。
コミュニティケアを銘打ってはいるが、コミュニティでの支え合いという意味ではなく、コミュニティ全体にケアを提供する、というニュアンス。
一言でいえば「地域包括支援センター+老健+保健所+暮らしの保健室」?

 

地域の高齢者のニーズに総合的に対応する地域包括支援センターのような相談機能や支援機能、連携機能を持つのに加え、高齢者に対する訪問や通所・短期入所(10床・最長6か月)、食事・配食、学童・保育、福祉用具レンタルや住宅改修への対応、そして家庭医や紅十字(赤十字)の活動拠点、中医診療所(漢方・鍼灸など)を併設する。チャリティストアなども併設されている。

 

食事を提供しているのが大きな特色。
地域の住民が安価に食事をとったり、テイクアウトしたりすることができる。行政の補助があり、1食200円程度で食べることができる。

食事のメニューはおそらく1つ。咀嚼食、嚥下食はなし。このままテイクアウトもできる使い捨ての食器。

ここには日本のアースサポートの関連会社のオフィスも。昨年からは訪問入浴のサービスも提供している。1回500元(8,000円)というのは決して安くないし、もともとバスタブに入浴するという習慣のない中国だが、一度、経験するとみんな気持ちいい、湯船から出たくない・・・となるそうだ。住宅改修については、一つの建物に同じ間取りの部屋がたくさんあるため、システマティックな対応がしやすいとのこと。

 

日本の小規模多機能は、個別ケアを深めた先に出てきたコンセプトだと思うが、中国の多機能サービス拠点は、最大公約数的な地域ニーズに合理的に応えていくことを最優先しているように感じた。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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