【上海徇行記2019④】課題先進国は「先進」か?

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

超高齢社会の先進国、医療保険と介護保険を完備し、地域包括ケアシステムを実現し、そして地域共生社会に「戻ってきた」日本。
フォーマルなサービスだけでは地域は支えられない。このことに気づいた時点ですでにアジアの周回遅れなのかもしれない。

上海市では、市政府(民政局)との対談の中で、政策担当者の方が、介護における「インフォーマルサービス」(中国語でもこのまま発音された)について言及された。

これは、主に若い高齢者(60代)が、近所の一人暮らしや要介護の高齢者(主に80代以上)をサポートするボランティア。支援する側、される側の双方を登録し、社区の中でマッチングする。もともとは純粋なボランティアとしての活動だったが、現在は時間銀行(タイムバンク)の仕組みに移行している。
つまり、自分がボランティア活動した時間を記録していき、将来、自分がケアが必要になった時にインフォーマルサービスを受ける権利に引き換えられる、ということだ。

上海市内には、若者と高齢者が同じ建物で暮らし、若者は月20時間のボランティアをすることで安く居住できるという仕組みにチャレンジした高齢者住宅があると聞き、視察に行った。
しかし、実際には地域にボランティアが十分にいること、結果として、高齢者を多く住まわせた方が事業的に安定することなどから、視察時にはただの高齢者専用住宅になってしまっていたが、政府のみならず、民間レベルでも、インフォーマルサービスに注目していることを理解できた。

阜陽市の高齢者施設には、前の投稿でも紹介したが、入居者間の支え合いの仕組みがあった。ここでは、他の入居者を支援すると、1時間につき10元相当のポイントが施設運営者から付与され、もちろん貯まると、外食や買物などに使うことができる。

ちなみに、一昨年、台湾の新台市を訪問した際、やはり市政府の担当者からタイムバンクの存在を教えてもらった。
新台市では、大学生などの若者が高齢者へのボランティアを通じて「加齢について学ぶ」というプログラムがある。

日本と同じく核家族化の進んだ台湾では、高齢者と生活を共にする若者は少ない。そのプログラムでは、若者たちは、高齢者の食事や話の相手をしたり、日常生活の支援をしたり、高齢者と一緒に過ごすことで、歳を重ねていくとはどういうことなのかを、実体験として学んでいく。同時に、ボランティア活動した時間は、公的組織に登録され、将来の自分がサービスを受ける権利に引き換えられる。

面白いのは、その権利を家族や友人に付与すること、ボランティアだけでなく、公的サービスを受けることもできること。
一昨年の時点で、1,500人の若者がプログラムに参加していた。高齢者ケアを経験し、高齢者についての基礎的な知識を身につけた彼らは、自らや家族が高齢者になった時、上手にサービスを使いこなし、同時にケアのあるべきカタチについても、ある程度客観視できるようになっているのだろう。

地域の支え合いの仕組み化。
直接の財源出動を伴わない、お金以外の価値の交換で成立するケア。

公的サービスを全て置換できるわけではもちろんないが、その一部でも補完できるのは大きいし、私たちの本質的なニーズ(誰かにそばにいてほしい)などに応えることもできる。
そして支える側には、将来の安心感というインセンティブ以外にも様々な付加価値(役割、生きがい、知識やスキル)が生まれる。

素晴らしいと思った。

中国の政府関係者や事業者たちは、みな「日本の経験に謙虚に学びたい」と口を揃える。しかし、彼らは決して「日本の成功に」と言っているわけではない。日本に多くの視察者が訪れ、海外講演などに招聘されると、つい日本は優れている、と思いがちだが、僕らも決して解を見出せたわけではないし、それを達成できているわけでもない。

僕らは日本の経験について、色眼鏡をかけずに海外に伝えていかなければならない。そして、日本こそ、制度や財源を持たない国々の取り組みに謙虚に学ぶべきなのかもしれない。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。