【上海徇行記②】介護人材の浪費を国際化させるな

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

介護人材の不足は日本の大きな課題の1つ。

中国の介護職が日本で仕事をしてくれる可能性があるのか。
結論から言えば、おそらくそれは難しいと感じた。

今日の午前中に訪問した江蘇州経貿職業技術学院(School of Juiru Elderly Industry Management of JVIC)は12学院(学部)12000人の学生を擁する大きな大学。
2007年、公共管理学院の中に老年産業管理学院が創設され、現在1300人が学んでいる。社会福祉保健関係の行政管理人材の養成が主であるが、現場のスタッフの介護職能向上のための教育・研修も提供されている。

老年産業管理学院の王院長からは、江蘇省の高齢化の状況について説明があった。
江蘇省はすでに高齢化社会。2017年末の時点で65%以上人口は約1200万、高齢化率は15%(中国全体では11.4%)。そして高齢者人口は毎年57万人ずつ増加しているという。平均寿命の延伸もあり、80歳以上人口は250万人。そして高齢者人口の52%が独居、10%が要介護(認知症含む)、3%が重度介護を要する。
江蘇省の必要な介護人材は15万人と見積もられているが、現状5万人しか確保できていない。現在の介護職の高齢化も深刻化してきており、この傾向は中国全体でも同様であるという。このような現状において、若い介護職が中国から日本に雇用をもとめてやってくるというのは少し考えにくい。

海外からの人材確保というアイデアは、当面は限定的に機能するのかもしれない。
しかし、中国は人材不足が顕在化しつつある。アセアン各国も少子高齢化が始まっており、日本よりも速いスピードで進行する。人口増加が続くアフリカ、失業率の高い中東を除けば、「海外から介護力を輸入する」という考え方は、近い将来、成立しなくなるのではないか。

高齢化は全世界的に進む。
より重要なのは、人海戦術による人材浪費介護を卒業し、一人ひとりの介護専門職の生産性向上と、要介護者の「介護職依存度」の低減を目指すことだと思う。

介護専門職の生産性向上のためには、介護以外の事務的業務の最小化と、要介護者のニーズにピンポイントに対応できるフレキシビリティが重要になる。AIやロボティクスも活用しつつ、一人の専門職がより多くの要介護者をより効果的に支援できる介護の制度設計を考えるべきだと思う。
また、病気や障害があっても自立した生活が継続できる環境があれば、要介護者の「介護職依存度」は下がる。超高齢社会は「健常者」が「非健常者」を支えるという前提では成り立たない。既成概念に縛られることなく、日常生活や就労を含む社会参加にハードルのない新しいコミュニティを創っていく必要がある。行政や事業運営者のみならず、市民一人ひとりの意識変革も重要だ。

王院長は、卒業生の雇用先としてよりも、むしろ日本との教育・研修の交流に期待を込めているようだった。
日本がアジアの国々と自らがケアの領域で培ってきた知識や経験を共有するという利他の心があれば、海外の若い専門職との人材交流はありうるだろう。しかし、日本の高齢者をケアするために、という近視眼的な人材流通はおそらく歓迎されない。

超高齢社会という課題を共有するパートナーとして、アジアの国々とオープンで対等な関係で課題解決に取り組んでいけるか。
日本に求められているのはそういうことなのではないかと感じた。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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