【加賀徇行記①】北陸へ。コミュニティの先端を目撃する

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

いつも刺激をいただいている 「銀木犀」オーナーの下河原忠道さんのコーディネートで、北陸の地で独自の事業を多く展開する社会福祉法人、佛子園の施設を見せていただけることになった。

「輪島KABULET」「Share金沢」「西圓寺」「行善寺」「星が岡牧場」など、福祉/就労施設のほかに近接して温泉施設や飲食施設を複合的に組み合わせるなど、あたらしい地域のかたちを提示していて、非常に気になっていたのだ。

 

本日は「輪島KABULET」。能登半島・輪島の市街を「Reイノベーション」した生涯活躍のための街づくり。空き家の再生と、空き地への新設を上手に組み合わせて、輪島の街に心地よい空間を生み出している。そして、そこにはさまざまな人々がいきいきと集い、施設群は穏やかで温かな存在感を放っていた。

西圓寺、シェア金沢、行善寺・・・
なぜ佛子園の街づくりはこんなに輝いているのか?
僕が感じたことをまとめてみた。

 

多世代ごちゃまぜウェルネス。だれでも利用できる「かかりつけウェルネス」。
小規模だけど、一通りのマシンとサーキットトレーニング、スタジオ。
「ごちゃまぜ」を通じて「幸せ」と健康づくりができる地域の交流拠点。

とにかく、センスがいい

改築に適した空き家がある、というだけでなく、複数の空き家や空き地が適度に隣接し、向かい合い、そして時には桂馬飛びのような適度な間隔で集簇している「エリア」を抽出する。それぞれの建物の持ち味を生かしながら、周辺との街並みに自然に溶け込むように複合的にリノベーションする。そして「心地よい空間」を創るために、家具や照明はもちろん、食器やエプロンなど細部にまでこだわる。食事のメニュー、サービスのプログラムの1つ1つも、それを利用する人たちのニーズがじっくりと考え尽くされている。そして洗練されたロゴやネーミング、ウェブサイトやパンフレットのデザイン。すべてが美しい。
そして完成した街は、大きな窓からこぼれる暖かい光、敷地を流れる温泉から立ち上がる湯気、そしてそこに集まる人々・・・とにかく「街が生きている」という感じがする。

近所にあるサービス付き高齢者住宅。お世話するサービスではなく、高齢者は自ら、自分の生活を選択し、主体的に暮らす。

 

地域住民の生活の一部になっている

ここは、特定の用途のためにやってきて、用事を済ませて帰っていく、そういう既存のサービス拠点とは異なる。
自宅の延長線上であるかのように、地域のいろんな人が、いろんな思いで集まり、ここで思い思いの時間を過ごしながら、自分の世界を広げていく。地域住民のニーズに応えるという位置づけが明確なので、例えば、温泉には地元住民は無料で入湯できる。セルフカフェではお母さんは子どもと一緒に料理を楽しむこともできる。近所のおじさんがコーヒーを飲みながらぼーっとしていることもできる。放課後デイも、高齢者介護施設も、無料のユーティリティスペースも、本格的な料理や日本酒が楽しめるそば屋も、高齢者でも障害者でも気軽に運動が楽しめるフィットネスクラブも、単に用事を済ませるためではなく、そこに行くための口実で用途があるかのような、そんな場所になっている。だから用事が終わっても誰もすぐには帰ろうとしない。住民が集まり、住民がつながる、そんな接点として機能している。

リノベーションされた民家。 屋根の上に設置された黒い板は、向こう側に見えるビル屋上の給水ポンプなどを視界から隠すためのもの。

 

「ごちゃまぜ」が心地よい!

自分が心地よいと「他の人も心地よくなってほしい」という気持ちが働くのだろうか。ここでは誰も排除されない、そんな安心感なのだろうか。ここにいると、自然に大らかな気持ちになれる。他の人のありのままを受け入れることができそうな気がする。そしてこれこそが「ごちゃまぜ」の心地よさなのかもしれない。
施設では、障害者も健常者も対等に働いている。そして仕事を終えた後も、自分の居場所のようにそこでくつろぎ、そこを楽しんで帰っていく。ここには、支える、支えられるという明確な区別は存在しない。サービスを利用する上でも、障害の有無などが障壁になることもない。暗黙のルールがあるとすれば、それは他の人にいやな思いをさせない、ということなのだろうか。ルールというよりも、自然にそうありたい、と思える空気がそこにある。

近所にあるカフェ・カブーレ。これも民家のリノベーション。能登ヒバの香りと北欧のデザインに囲まれた親子で楽しめるセルフサービスカフェ。
メニューの代わりに食事の作り方のガイドと食材が置いてある。心地よいキッチンと、素敵なデザインの食器やエプロン。

存在そのものが地域の社会福祉になっている

ここでは高齢者介護や障害者福祉など、制度に基づくサービスも提供されている。しかし、ここで働く人も、ここを利用する人も、単に職員・利用者として特定の用途を満たすのみならず、「この場所に集う人々」としても機能している。住民たちも、ここを利用しながら、高齢者や障害者と空間・時間を共にする。そして、さまざまな人が一緒に過ごすことの自然な心地よさを、自ずと理解していくように思う。いい意味で特別だけど、悪い意味で特別じゃない。そんなことに気がつく人たちが地域に一人二人と増えていくことは、どんなに素晴らしい制度や施設を整備することよりも重要なことであるように思う。そして、その人たちが、ちょっとしたことを自然に助け合えるようになれば、制度の有無に関係なく、これはこれでお互いに幸せなことなのだと思う。そして、このようなコミュニティにおいては、医療や介護の役割も、医療や介護職のスタンスも、自ずと変化していくのだろう。

佛子園の取り組みは、地域づくりというよりは、新しい文化の創造。それは僕らの「豊かさ」を再定義し、よりよい未来への明るい選択肢を示してくれているように思う。

自分の地域にもこんな場所があったら。
いや、どうやったらこんな場所が創れるのか、明日も一日、金沢でじっくりと考えてみたいと思う。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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