私たちは、なぜ問うのか

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日本産科婦人科学会の「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針(案)」について公開質問状が出されました。

 

これを提出したのは、出生前診断に関する専門家集団の「出生前検査の適正な運用を考える会」です。私もこの会の発起人の一人です。

今回、なぜ質問状が出されたのか?そして、この件に関する様々な問題について、一言では説明しきれませんが簡単にまとめます。

 

そこに「見えざる手」を感じさせてはいないのか?

今回の問題は、新型出生前検査(NIPT)と呼ばれる、最新の遺伝子技術を用いた新しい検査に関わることです。実は、私が約20年前にアメリカ留学時に研究した内容と大きく関わっていまして、当時のボスであるビアンキ教授は現在NIH(アメリカ国立衛生研究所)の母子保健部門のトップになっています。

この検査は最新技術を使い、採血するだけでお腹の赤ちゃんがダウン症や染色体異常があるかどうかをみるものですが、実際は新しい技術だけあって検査結果にも様々な問題が存在しています。そのため専門家による検査の管理がとても重要なのですが、実は、日本においてはこれら新しい検査を所管する法律がまったく整備されていないのです。その結果、専門医以外の門外漢、語弊はありますがおそらく名前だけ貸すような医師を置いて、実際は採血と検査結果だけ送付するクリニックが乱立しており、便利さや広告力に惹きつけられ、多くの妊婦さんが受検されているのが現状です。そして、実際に結果に問題があったとき、相談等、その場合にきちんと対応してもらえる場が与えられず、不利益を受けている方も少なくありません。

そのような背景もあり、日本産科婦人科学会は先の指針(案)で、検査できる施設を拡大する方針にしています。このこと自体は、妊婦さんたちのことを考えれば早急に改善することが求められており、異論もありません。
しかし、検査のことと、その後の対応のこと、実際に現場で専門家として対応できる医師の定義が曖昧であり、拡大する施設の認定に関して、どちらかといえば物理的な点(分娩できるかとか中絶できるかなど)で決めてしまっています。昨今の分娩施設数の減少という状況からすると、むしろ分娩は扱わないものの、専門家として対応している多くの施設がこの検査に関われない状況となりつつあります。

海外では、大学や総合病院などの大規模施設が拠点病院となり、そこと連携する形で多くのクリニックがサテライト施設(関連施設)として、ひとつのチームを組んで、妊婦さんに対応していることが多いです。残念ながら、日本では相変わらずそれぞれの施設でなんでもやらなければ、という考え方に固執する向きが一部にあり、その結果として妊婦さんが安心して相談する場所も専門家もなくなってしまっているのです。

 

表立った議論をしない日本・・・


ところで、日本におけるこの問題を語るときに、必ず出てくる意見が中絶の問題です。もちろん、その問題を語ることも非常に大切です。米国では、それが政治的な大きな問題にすら今もなっています。


 
日本では、これがきちんと議論されてきたことがありません。建前と本音がまさにでてしまっています。
今日本で行われている人工妊娠中絶は約16万件もあります。中絶されるその多くの胎児は正常で、本来であれば生まれて一人の人間として生きていける子たちです。この是非はとてもここでは語れませんが、それについての議論が普段まったく行われていないのに、出生前検査のときだけ、この問題まで絡めるのは違和感を強く覚えます。普通に妊娠した場合でも、その後、カップルの今後の人生観や経済状況、様々なことから中絶を選択する方々が年間16万もあるのにです。
なぜ検査とその結果による夫婦の行動まで一緒にしてしまうのでしょうか?


出生前検査は中絶ありきの検査ではありません。その結果によってカップルも様々な苦悩と決断をしています。ですから、まずは妊婦さんやカップルの希望に沿って安心して出生前検査が受けられる場を作っていくことが今急務であると考えます。本来であれば、そのことについてもじっくり検討する必要があるとも個人的に思っていますが、今日この瞬間も、未認可の採血だけ安易に行って、結果を郵送して丸投げするような施設に多くの妊婦さんが行っている現状を考えると、できるだけ早く、そのような捻れた状況をまずは正す必要があると感じています。

これまで日本では、いわゆる「白い巨塔」のように各大学や施設でほぼ孤立して仕事をしていた専門家同士が、ネットワークをつくり専門家集団として「出生前検査の適正な運用を考える会」を立ち上げました。我々の会は単にNIPTを行うかどうか、ということだけでなく、これからどんどん出てくる新しい検査はもちろんの事、これまで行われてきた様々な出生前検査についても、必要としている日本の妊婦さんがきちんと検査を受けて、その結果に対し、体制をどうしたらできるのか、専門家として真摯に取り組んでいきたいと思っています。


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茨城県出身。医師、医学博士。専門は産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、ITプライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)。
母校で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後には幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があります。
著書一覧はこちら
https://www.amazon.co.jp/宗田-聡/e/B005LN0EOI

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