佐々木淳

ポリファーマシーへの処方箋

2019年3月18日

「ポリファーマシーを考える」

全国介護付きホーム協会の主催する医療介護連携セミナー。
光栄にも尊敬する東大医学部老年病科・秋下教授とタンデムで講演をさせていただきました。

在宅医療カレッジでもポリファーマシーについてご講義いただいた秋下先生。いつもの通りの柔らかい物腰で、しかしフレイルや多病の高齢者に対するポリファーマシーについて、強いアラートを発信されました。
病状・治療に優先順位をつけること、木でなく森を見ることで、多様な高齢者に最適な医療を提供することが大切、と豊富なデータとともに具体的な方法をアドバイスしてくれました。

僕からは、具体的な減薬(薬物療法適正化)の実践方法についてアドバイスをさせていただきました。
特に多病の高齢者については、主治医を一人にまとめること(臓器ごとに専門医にかかるのをやめて、複数疾患をもった「その人」を丸ごと診てくれる主治医をもつこと)、処方カスケードによるポリファーマシーに気づくためには、現在の処方内容だけでなく現在の処方に至った経緯を把握すること、優先順位をもって治療を考える上では、加齢に伴う機能の低下(変化)なのか、病気なのかを判断することなどが重要ではないか、とお話をさせていただきました。

また、SOMPOケア、ベネッセスタイルケア、ニチイが運営する介護付きホームからは、減薬の取り組みについての事例報告がありました。
多職種がしっかり情報共有・目的共有して減薬を推進、その結果、入居者のQOLが改善した事例。便秘に対して、下剤ではなく生活改善と身体ケアで薬物に依存しない排便コントロールができ、入居者とスタッフ双方の負担が大きく軽減した事例。そして、多剤併用者の減薬を積極的に進め、半年間で転倒や入院の発生件数が大きく減少した事例。

いずれの成功事例にも共通点がありました。
1つは、多職種がしっかりと連携できていること。特に施設は、居宅とは異なり、チームメンバーが固定されます。一度、「スーパーチーム」が結成できれば、高いケア力・課題解決能力を現在から将来のすべての入居者に対して発揮することができます。これは施設ケアの最大の強みであると思います。医師がフラットな関係性でチームメンバーとして機能しているのも1つのポイントだと思いました。
もう1つは、その人にとって本当に最適なケアとは何か?と常に問い続けていること。薬物療法は目的ではなく手段です。その人の療養生活を考える上で、現在の薬が最適なのか? 薬は医療だから、とノータッチにせず、薬もケアの一部として主体的に関わる姿勢。とても重要だと思いました。

ワークショップを通じて抽出された減薬の取り組みの最大の障壁は、残念ながらポリファーマシーに無関心・減薬に非協力的で、他の専門職を見下し、意見されると無条件に相手を否定する医師の存在。その高いプライドは、自分が担当している患者さんにベストのケアを提供することに対して持ってほしいと思います。もちろん自戒を込めて。

以下は、秋下先生のご講演のアウトライン。
いつもながらスマートでわかりやすい。

以下、アウトライン。

●加齢に伴いフレイルが進む。これは介護の前段階だが、可逆性がある。

●フレイルの要因は単に身体的な機能の低下だけではない。認知機能低下・うつなどの精神・心理的要因、独居・貧困などの社会的要因などの多面性がある。

●下肢の骨格筋量は25歳をピークに減少、40歳から70歳の30年間で8%、70歳を超えると10年ごとに15%ずつ失われる。ピークの70%を下回ると死亡リスクが上昇する。このような状態を筋肉減少症=サルコペニアと呼ぶ。

●筋肉量の測定は容易ではないが、「指輪っかテスト」で代用できる。両手の親指と人差し指でわっかをつくり、ふくらはぎ(下腿)を囲む。指輪っかとふくらはぎの間にすき間ができる場合はサルコペニアの可能性が高い。

●運動と栄養がフレイル対策の二本柱。特にサルコペニアに対してはタンパク質の摂取(体重1キロあたり1グラム以上)が重要。慢性腎不全に対する過度のタンパク制限はサルコペニアを生み、死亡リスクを高めるので注意が必要。

●治療によるメリットとデメリットは加齢や状態(フレイル・要介護など)により変化していく。加齢・状態悪化に伴い、治療のメリットとデメリットは逆転していく。薬物療法の対象となるのは、メリットがデメリットを確実に上回る時だけ。

●ポリファーマシーとは、アドヒアランス不良(ちゃんと飲めない)など多剤に伴う諸問題だけでなく、不要な処方、加療・重複投与などの不適切処方を含む。多剤併用でも特に害をなしうるもの。

●東大老年病科に入院した高齢患者を対象とした解析では、6剤以上で有害事象の発症頻度が優位に上昇。都内診療所に通院する高齢患者を対象とした解析では、5剤以上で転倒の頻度が優位に上昇。従って、薬は5種類あたりがボーダーライン。

●年齢別に見ると、歳を重ねるほど、薬は増えていく傾向にある。75歳以上だと、40%の人が5種類以上、25%の人が7種類以上の薬を飲んでいる。後期高齢者の約4割がポリファーマシーの状態。

●ポリファーマシーの要因①:複数医療機関・複数診療科を受診し、それぞれから薬をもらう。

●ポリファーマシーの要因②:処方カスケード(薬の副作用が新しい病気と誤診され、新たな薬が処方される)

●ポリファーマシーを避けるためには、①予防薬のエビデンスは妥当か?②対症療法は有効か?③薬物療法以外の手段はないか?④優先順位は?(個々の病態・生活機能・生活環境・本人の意志などを包括的に考える)などを意識する。

●特に慎重な投与を要する薬物のリストがある。PIMs/Beers Criteria(米国)、STOPP(欧州)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(日本)。

●認知機能低下を起こしうる代表的薬剤:向精神薬・睡眠薬・安定剤・抗うつ薬・抗コリン薬・抗ヒスタミン薬

●抗コリン薬には累積投与により認知症発症リスクが最大で1.5倍くらいまで増大する。抗コリン薬の中には、薬局で普通に買える胃薬や抗アレルギー剤などもある。内服は必要最小限に。

●ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、抑うつ、食欲低下、便秘、排尿障害・尿失禁・・・これらの老年症候群も薬剤により悪化しうる。

●認知症やフレイルの人は、病気の管理目標が違う。

●糖尿病:普通はHbA1c7未満が目標だが、認知症・フレイルの場合は8.5未満かつ7.5よりも下げない!重症低血糖は認知症発症率を2.1倍に、また認知症があると低血糖が3倍起こりやすくなる。血糖を下げ過ぎないことが大切。

●高血圧:収縮期血圧を125よりも下げると、認知症が進行する。125を超えると降圧治療をしていても、していなくても認知症の進行は変わらない。血圧も下げ過ぎないことが大切。

●薬剤見直しのためのチェック項目:①生活をみる(食事・排泄・睡眠など)②生活機能をみる(ADL、認知機能など)③訴えと思いを理解する ④身体をみる(血圧・低栄養・脱水など)⑤診療情報を読む ⑥検査値を読む(腎機能・肝機能など)⑦薬をみる(量・数・種類・相互作用など)

●多職種連携がポリファーマシー対策のカギ/診療報酬も改定された(薬剤総合評価調整加算250点)

●東大病院では薬剤師による持参薬評価テンプレートを用いたスクリーニングを行っている。評価項目①薬剤調整希望あり②65歳以上の高齢者で安全な薬剤③薬剤管理能力の低下④薬効重複⑤効果や副作用⑥相互作用⑦疾患や肝腎機能/6坐位以上スクリーニングでは44.7%が2剤以上の減薬ができた。

●療養環境移行時(入院・入所など)は処方整理のチャンス。逆に(自宅ではちゃんと飲めていなかった場合など)在宅療養時の処方を入院・入所時にそのまま継続することで効き過ぎてしまうこともある。ちゃんと処方を調整しないといけない。

●アドヒアランス(服薬率)をよくするための工夫:①数を少なく(複数同効薬は効果の強い1剤から合剤へ)②服用法を完敏化(1日3回→1回へ、食前・食直後など複雑な方法は避ける)③介護者が管理しやすいように(出勤前・帰宅後などにまとめるなど)④剤形の工夫(口腔内崩壊錠や貼付薬など)⑤一包化・服薬カレンダーの利用

●処方の適正化のためには生活指導も重要:規則正しい食事・排泄機能の維持・適切な睡眠習慣(夜更かし・早寝の防止、目が覚めたら離床する)

●一般向け啓発用パンフレットあり、MindsのHPからDL可。ぜひ活用しよう!


You Might Also Like

No Comments

Leave a Reply