「孤独」への処方箋はあるか

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「自分は果たして、目の前のこの人の役に立てているのだろうか?」

医療者として常々考える。

病気を診断し、治療し、管理する。
それはもちろん必要なことだと思う。
しかし、医療の提供を保証できたとしても、納得できる生活や人生が継続できなければ意味がない。
元気に長く生きられることはもちろん大切だけど、それが楽しく、生きがいのある時間でなければ意味がない。

大切なのは、人のつながり、そして、その中での自分の居場所や役割。
多くの研究が、人とのつながりが、単に生活の楽しさや人生の充実だけでなく、実は直接的に私たちの健康状態(死亡のリスク)に影響することを示唆している。

 

●Breslow and Berkman(1983)の行ったアラメダ研究(Alameda County Study)では30歳から69歳までの男女4,725人を対象に9年間にわたって追跡調査。Berkman et al.(1992)は「社会的に孤立している人」は、多くのネットワークを持つ人と比較して、年齢補正後の死亡率が男性で2.3倍、女性で2.8倍であることを報告している。

●Blazer(1982)が65歳以上の男女331人を対象に30か月間の死亡率を追跡調査したダッハム研究(Durham County Study)では、役割と所属(婚姻状況,子どもの人数,兄弟姉妹の人数)、接触頻度(電話,友人や親族の訪問)、社会的支援などが「低いレベル」の人は高い人と比較して、死亡率が上記順に2.04倍、3.40倍、1.88倍であることを報告している。

●Schoenbach et al.(1986)はエバンス心疾患研究(Evans County Cardiovascular Epidemiological Study)において、40歳以上の男女2,059人を9年~12年間追跡調査。年齢及び潜在的危険因子の調整後にも、婚姻状況、近隣に居住する親族の人数、親しい友人の人数、訪問する隣人の人数、接触する親族の人数、教会活動の頻度、その消費時間などが「少ない人」は多い人と比較して死亡率が1.5倍であることを報告している。

●Seeman et al.(1987)は38歳から94歳までの男女4,174人を17年間、追跡調査。60歳未満では婚姻状況,60歳以上では親しい友人や親類との接触回数が死亡率の予測要因として重要であると報告。同じくSeeman et al.(1993)は複数地域の65歳以上の男女を5年間の追跡調査。年齢及び他の変数の調整後にも「社会的な結びつきのない人」はすべての結びつきを持つ人と比較して死亡率が地域ごとに1.8~2.4倍であることを報告している。

●Berkman et al.(1992)は65歳以上の心筋梗塞入院患者の男女194人を6か月間追跡調査。喫煙や高血圧などの危険因子,社会経済的要因,心筋梗塞病状による影響の調整後にも「情緒的支援の欠如した人」は、それらを有する人と比較して死亡率が2.9倍となることを報告している。

 

医療が頑張るだけでは、救えないものが確実に存在する。これはすでに明らかなのだ。

孤立、社会とのつながりの希薄さ、情緒的支援の不足。
核家族化と超高齢化の進行の中で、独居世帯は増えているし、世帯単位での社会的孤立も増えている。
在宅医療・在宅介護には、在宅での生活の支援という一面の下に、患者(利用者)や家族を家に閉じ込め、社会的孤立を深刻化させるというリスクも孕む。

悠翔会で開催された「未来をつくるKaigoカフェ」
地域での居場所づくりやコミュニティの運営に取り組まれている方々が、その立ち上げや運営のノウハウ、そして重要なポイントを惜しげもなく披露してくださるという、まさにプライスレスな企画だった。

医療や介護の専門職がどうあるべきなのか。サービスの質を磨くことはとても重要だが、我々の提供するサービスはあくまで手段にすぎない。
目的は、アウトカムは、その人にとっての幸せで充実した人生。
だとすれば、我々は何をなすべきなのだろうか。

悠翔会からも複数のソーシャルワーカーと地域食支援に積極的に取り組む歯科医師・歯科衛生士・管理栄養士が参加してくれた。
本当は医師・看護師ももっとたくさん関心を持ってくれたらいいのだけど、そのためには、我々のアウトカム評価の指標を見直すことも必要かもしれない。
いずれにしてもとても有意義な2時間だった。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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