【英国徇行記③】ホスピスの運営に見えたのは「覚悟」

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

「サバイバル(生存期間)を延ばすことはできないが、残された日々に息を吹き込むことができる」

ノース・ロンドン・ホスピス(North London Hospice)の教育担当看護師、ギルさんはホスピスの役割について、そう説明してくれた。

ここは1992年に設立され、ロンドン北部の3区の住民に対して「無料」のホスピスケアを提供している。
独立運営組織で、提供されるサービスは、なんと保険医療ではなくチャリティ(自由診療)。
年間約10億円の運営コストの3割はNHSから補助されるが、残る7割は自力で資金調達している。

このホスピスのコンセプトは「家にいられる人は、なるべく家でいられるケア」、そして「それができない人にとっては、ここが『自宅』と感じられるようなケア」。従って、在宅ケアに非常に力を入れている。
加えて3つの地域拠点から専門職やボランティアが訪問し、在宅療養をサポートする。常時600名の在宅患者を支援するため、各拠点に緩和ケア専門看護師が8~10名配置されている。

18床の入院病床では、①症状マネジメント、②レスパイト、③看取りケアを提供。自宅のように自由に過ごすことができる。
平均在院日数は2週間。年間500人がここから旅立っていく。

ホスピスケアの対象となるのは、年齢や疾患によらず、死が近い(概ね6か月以内と想定される)人たち(ただし小児は別のホスピスが担当)。
患者は病院やGP、地域看護から紹介されてくるが、本人や家族が直接訪問してくることも。ただし、本人の同意がなければ紹介は受け入れない。紹介後、48時間以内にトリアージ(ホスピスが本人のニーズに最適なのかも含めたアセスメント)が行われる。以下、このホスピスの4つの機能の概略をご紹介する。

【1】入院ケア(入院ホスピス)

がんとエイズという受け入れ制限がない点を除けば日本とほぼ同じ。
ただ、医師のプレゼンスはかなり低い。理事に2名の医師がいる他、GPコースの緩和ケア研修医が2名常駐するが、緩和ケアを専門とする上級医の病棟回診は週2回。医師の当直はない。
主力は看護師。緩和ケア専門看護師が、疼痛緩和の処置も含め多くの部分を担っている。処方箋を書くことができる上級看護師もいるという。病棟には約40人の看護師が所属している。
MSWやPTなども含めた多職種カンファランスを定期的な行い、チームケアを提供する。

ホスピスはすべて個室。庭(バルコニー)に出られる大きな掃き出しがあり、天気がよければ、ベッドごと表に出られる。庭のない部屋には大きな出窓が。外の風がほしければ日本庭園風に仕立てられた中庭で過ごすことができる。
飼っていた犬を連れてくることもできるし、タバコを吸うこともできる(英国では公共施設での喫煙は厳しく制限されているが、例外的に認めさせている)。

【2】コミュニティケア(在宅ケア)

3つの地域拠点にコミュニティチームを配置。専門職が地域にアウトリーチし、症状コントロール、情報提供、そして家族を含めたサポートを提供している。医師もアウトリーチするが、ここでも主力は看護師。他にPTやMSWなど。
かかりつけ医であるGPや地域看護師、社会福祉サービスや病院とも連携しながら、がん患者の在宅療養を支援する。

最終段階が近づき、予後が6か月未満と推定される状況になると、PCSS(Palliative Care Support Service)が利用できる。これは上記の専門職に加え、ボランティアなども加わり、できるだけ入院せずに最期まで自宅で過ごすための支援。
現在、なんと900名ものボランティアが登録しているという。

エンフィールド区の地域拠点は、アウトリーチの拠点としてだけでなく、「Health & Wellbeing Centre」として地域のプライマリヘルスケアを提供している。カフェや理美容室なども配置されているが、こちらもすべてチャリティ、無料で利用できる。

【3】グリーフケア(Bereavement Support Service)

必要な場合、遺族やその友人に対するケアが最大14か月間、提供される。
ケアのスタイルは1:1の対話、そしてグループミーティング。
14か月間というフォローアップの期間は、故人と家族・友人との「記念日」が確実に一巡することを想定している。もし14カ月を経てもケアが足りないということであれば、そこから先は専門的な支援が必要と判断される。

【4】教育

複数の大学と提携し、緩和ケアの教育機関としても機能している。緩和ケア専門看護師およびGPの緩和ケア研修コースとしてフィールドを提供している。
今回、ホスピスの視察に同行してくれた2人のナースも教育担当。
ホスピス運営にあたり、重要な「外貨獲得」の手段でもあるとのこと。

人生の最終段階の人を、疾患の種類や社会経済的状況に寄らず、最期まで温かく見守る。
自宅でいたい人は最期まで自宅でいられるし、入院を希望すれば自宅のようなベッドで最期を迎えることができる。そして何よりも本人の選択が尊重される。
教育コーディネータ(緩和ケア専門看護師)のジョディは、「英国のホスピスケアは世界で最高だから」と胸を張っていたが、確かにそれは間違っていないような気がする。

しかし、このサービスを維持するために、資金調達とボランティアの確保・育成という弛まざる努力が行われていることも知った。ノース・ロンドン・ホスピスは担当地域に17のチャリティショップを展開するほか(年間利益1.5億円)、教育事業、遺族からの寄付や本人からの遺贈、そして企業からの寄付など、さまざまな方法で活動資金を確保している。

自分たちがやりたい医療を、自分たちの責任でやっていく。そんな覚悟のようなものも感じた。

 

【 お知らせ 】

佐々木医師が運営に関わる「在宅医療カレッジ」の年末恒例企画、公開シンポジウムが開催されます。今年はソーシャルインクルージョンと地域共生社会をテーマに、10人のオピニオンリーダーが行政・学識・実践のそれぞれの立場から議論を戦わせます。聴講は以下のページで受け付けています。

<申し込みはこちら>

■日時:2018年12月14日(金) 18:00~21:00(17:30 開場)
■会場:東京国際フォーラム ホールB7 (東京都千代田区丸の内3₋5₋1)

<タイムスケジュール>
17:30~18:00 開場/交流タイム
18:00~18:55 在宅医療カレッジ・医療法人社団悠翔会 2018年運営報告
19:00~21:00 ラウンドテーブルディスカッション
「誰もが幸せに暮らせる『ソーシャルインクルージョン』って何だ? 改めて「地域共生社会」を考える」

パネリストの方々にはそれぞれショートプレゼンテーションに加えて、「日本がこれから直面する社会課題」「日本の取るべき今後の方向性」「地域共生社会の実践モデル」の3つのテーマについて議論し、最終的に「地域共生社会って結局なんだ⁈」という問いへの具体的なイメージを共有したいと思います。

パネリスト(順不同・敬称略)
●西村 周三(医療経済研究機構所長/前国立社会保障・人口問題研究所所長)
●浅川 澄一(ジャーナリスト/元日本経済新聞編集委員、日経トレンディ編集長)
●大熊 由紀子(国際医療福祉大学大学院教授/元朝日新聞医学記者・論説委員)
●唐澤 剛(前 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部・地方創生総括官)
●藤岡 雅美(厚生労働省健康局健康課・課長補佐)
●井階 友貴(福井大学医学部地域プライマリケア講座教授)
●雄谷 良成(公益社団法人青年海外協力協会 代表理事・社会福祉法人佛子園 理事長)
●加藤 忠相(株式会社あおいけあ代表取締役・慶應義塾大学客員講師)
●下河原 忠道(株式会社シルバーウッド代表取締役)
●佐々木 淳(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)※モデレータ

■参加費:
事前申込:3000円(※ 前日振込完了までとなります)
当日受付:4000円


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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