【英国徇行記②】ロンドンのマギーズに見た、戦略的組織マネジメント

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

ロンドン中心部、セント・バーソロミュー病院の敷地内に開設されたMaggie’s Bartsを訪問した。

ここは昨年12月に開設されたばかりの新しいセンター。マイケル・ハリソン(Michael Harrison)氏はもともとがん看護を専門とする看護師。がん病棟で上級看護師としての30年の経験を経て、ここのセンター長に就任した。今日は、マイケルさんと、ボランティアの建築家、ワードさんの2名のセンターを案内してもらった。

マギーズは2年前、東京にもオープンした。
ロンドンのマギーズは、もちろんコンセプトは同じだが、その運営規模・資金規模の大きさにちょっと圧倒された。

●自宅のようにほっとできて、安全が確保された場所。

あくまで「Nonclinical(非医療的)」、「Homelike(自宅のよう)」で「Welcoming(誰もが歓迎される)」な場所。
ドアを開けて入った瞬間、ほっとできる感じが重要だとハリソンさん。

ここでは、みんな思い思いに過ごせる。
一人で静かに過ごす人もいれば、家族とともに過ごす人、スタッフやボランティアと対話をする人。放置されるのではなく、しつこく声をかけられるのでもなく、適度な距離感。自宅で自然に時間を過ごしているように。
もちろん他の人に話を聞かれたくないときは、プライバシーが確保できる空間を作ることもできる。そして、ここで交わされた会話の内容は、完全に守秘される。

ヨガや太極拳、アートセラピーなどのクラスもあるが、アロマセラピーやマッサージなどのサービスは提供していない。やってあげる場所、ではなく、セルフケアを助ける場所、と考えているという。現在、血液がん、卵巣がん、頭頸部がんのサポートグループと連携しているが、必要に応じて他の患者支援団体とも連携し、必要な支援につないでいく。

●環境(空間)の大切さ

マギー・ジェンクスさんは、素晴らしい空間で素敵なものに囲まれていれば、人は自分が大切な存在であるということに気づけるのではないかと考えていた。従って、建築やインテリアには妥協がない。マギーズセンターの多くは建築物としても高く評価されている。

ちなみに、この「Maggie’s Barts」は、歴史あるセント・バーソロミュー病院の敷地内、1731年に建築された「グレートホール」に壁を共有する形で建築されている。現代建築だが、歴史ある建物と不思議な一体感を見せていた。
建築家はスティーブン・ホール氏。建築費はなんと700万ポンド(約10億円)! これから建物の裏側をガーデンとして整備する予定とのことだが、ランドスケープだけで30万ポンド(約4500万円)のファンドレイズを予定しているという。
室内に差し込む柔らかい光は、ドイツから取り寄せた特別な素材をガラスに挟むことで実現、カーブ加工した特殊ガラスを含め、建築費の約半分がガラスウォールに。他のマギーズと異なり、大きな庭園や水面を確保できない分、建物そのものにこだわったのだろうと勝手に解釈した。

内部は竹の素材で覆われている。
内部は竹の素材で覆われている。

大きなキッチンが中央に配置され、テーブルには花が。コーヒーやクッキー、果物はセルフサービスで自由に食べることができる。建物は3階建て。3階には暖炉のある広々とした空間が。大きなガラス壁を通じて屋上庭園を楽しむことができる。

●「専門職」としてではなく、あくまで「その人の理解者」として

スタッフの多くは看護師や臨床心理士などの医療専門職。しかし、ここでは専門職としてではなく、あくまで一人の理解者(になろうとする人)としてそこにいる。そして、患者のカルテを見て支援を考えるのではなく、その人の言葉を聞いて、対話を重ねる。
ボランティアは現在、常時2名程度。採用審査と研修を経て現場に出る。応募者としてはがん経験者が多いが、治癒と判断されてから2年たたない人はボランティアとしては採用していないとのこと。

●必要不可欠な社会資源として機能

病院では対応できないサポートを提供している。病院も必要不可欠な支援の窓口として認識しており、病院でも患者に対しマギーズに対する情報提供が行われる。
全英60カ所のがん治療病院のうち、30病院の敷地内または隣接する形でマギーズが開設される予定になっている。
ちなみにMaggie’s Bartsは、開設されてから1年に満たないが、現在1日平均80人が来訪、将来的には120人まで対応できる体制にしていくとのこと。

屋上に小さなガーデンが。

●100%チャリティで運営

必要な機能なのだから、予算をつけるべきとも思ったが、100%チャリティで運営されている。
常勤スタッフは雇用されているが、運営のかなりの部分をボンラティアが担う。有名建築家たちも無料でデザインや設計を引き受ける。マギーズの建築を引き受けることは1つのステイタスでもあるのだという。
ファンドレイズはマギーズの本部が行い、各拠点に分配する形で行われてきたが、現在、各拠点でのファンドレイズにも取り組み始めている。

Maggie’s Bartsだけで10億円の建築費、年間7500万円の運営費。
現在、東京・香港を含め22拠点に開設、加えて英国内に向こう5年で5~8カ所の開設を予定しているという。

これだけの事業をマネジメントしていくためには、資金政策や企画管理、事業運営、広報など、さまざまな高度専門人材が必要になるはずだ。また、それぞれの拠点を運営していくためのスタッフの確保と品質管理にも相応のコストが必要になる。
世界の著名建築家が喜んで無償での協力を申し出るのも、優れた専門職が事業に参加するのも、単にコンセプトが優れているというだけではなく、ブランディングが成功しているということでもあるのだと思う。
Age UKもチャリティ団体だが、やはり非常に組織マネジメントがしっかりとしている印象を受けた。

もちろん、寄付やボランティアに対する考え方の違いは大きい。
しかし、NPOだからお金をかけずに細々やる、というのではなく、社会事業として成功させるために、投資すべきところにしっかりと投資をしていく。そんな合理的な側面を改めて感じた。

 

【 お知らせ 】

佐々木医師が運営に関わる「在宅医療カレッジ」の年末恒例企画、公開シンポジウムが開催されます。今年はソーシャルインクルージョンと地域共生社会をテーマに、10人のオピニオンリーダーが行政・学識・実践のそれぞれの立場から議論を戦わせます。聴講は以下のページで受け付けています。

<申し込みはこちら>

■日時:2018年12月14日(金) 18:00~21:00(17:30 開場)
■会場:東京国際フォーラム ホールB7 (東京都千代田区丸の内3₋5₋1)

<タイムスケジュール>
17:30~18:00 開場/交流タイム
18:00~18:55 在宅医療カレッジ・医療法人社団悠翔会 2018年運営報告
19:00~21:00 ラウンドテーブルディスカッション
「誰もが幸せに暮らせる『ソーシャルインクルージョン』って何だ? 改めて「地域共生社会」を考える」

パネリストの方々にはそれぞれショートプレゼンテーションに加えて、「日本がこれから直面する社会課題」「日本の取るべき今後の方向性」「地域共生社会の実践モデル」の3つのテーマについて議論し、最終的に「地域共生社会って結局なんだ⁈」という問いへの具体的なイメージを共有したいと思います。

パネリスト(順不同・敬称略)
●西村 周三(医療経済研究機構所長/前国立社会保障・人口問題研究所所長)
●浅川 澄一(ジャーナリスト/元日本経済新聞編集委員、日経トレンディ編集長)
●大熊 由紀子(国際医療福祉大学大学院教授/元朝日新聞医学記者・論説委員)
●唐澤 剛(前 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部・地方創生総括官)
●藤岡 雅美(厚生労働省健康局健康課・課長補佐)
●井階 友貴(福井大学医学部地域プライマリケア講座教授)
●雄谷 良成(公益社団法人青年海外協力協会 代表理事・社会福祉法人佛子園 理事長)
●加藤 忠相(株式会社あおいけあ代表取締役・慶應義塾大学客員講師)
●下河原 忠道(株式会社シルバーウッド代表取締役)
●佐々木 淳(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)※モデレータ

■参加費:
事前申込:3000円(※ 前日振込完了までとなります)
当日受付:4000円


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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