【和蘭陀徇行記⑥】変革は、要求されるものか?

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

5日間のオランダ視察を終えて、スキポール空港に。
帰国前に、まとめきれなかったオランダの医療介護に対するインプレッションの中で、特に印象深かったものをシェアしておきたいと思います。
文献的な裏付けはしていないので必ずしも正しくないかも知れませんが、今回の視察で教えていただいた範囲で。

■オランダは「差別」がない

多民族国家オランダは、「本来のオランダ人」と差別なく移民にも外国人にも社会保障を提供している。加えて驚かされたのが、年齢による区別がないこと。日本では介護保険法(給付対象は特定の疾患なら40歳以上、それ以外は65歳以上など)を始め、年齢や疾患によるさまざまな区別があるが、オランダにはそれがない。ケアが必要な人は年齢に関係なくケアを受けることができる。
社会保障はみんなで支えるというコンセプトも明確。「誰もが受け取れるけれど、誰もが負担する。」オランダでは所得に関係なく、一定以上の税負担がある(33%~)。たくさん払うけど、たくさん受け取れる。この高負担高福祉にはオランダでも議論があり「オランダはもはや福祉国家ではない」とも言われているそうだが、少なくとも日本も「若者が支え、高齢者が受け取る」のままでよいのか、全世代で十分に議論したほうがいい。

■看護と介護に大きな区別がない

日本では看護師と介護福祉士は異なる資格だが、オランダでは看護も介護も「看護/Nursing」という大きな1つの概念でまとめられている。能力別に(日本でいうところの)介護から看護までカバーできる範囲が5段階で広がっていく。生活支援が中心のレベル1、身体介護までできるレベル2、(日本でいうところの)一般的な「看護」ができるレベル3、一定以上の専門性を持つレベル4、さらに高度な専門性やマネジメントを学んでいるレベル5。
施設長クラスは概ねレベル5を持っており、入居者のフィジカルアセスメントができることは当然ながら、相応の組織管理能力を兼ね備えている。日本では、この両方がちゃんとできる管理者は少ないんじゃないかな。何より、看護と介護を分けない、というところに合理性があるように感じた。

■施設基準・人員基準が画一的でない

オランダでは人員配置は現場のニーズに応じて運営者が決められる。評価の指標はあくまでアウトカムなので、きちんと成果が出せていれば、施設や人員配置はフレキシブル。だから、運営者の創意工夫で効果的なマネジメントができるし、生産性の高いケアを提供できる専門職にはしっかりとした給与を支払うこともできる。
日本では、施設基準・人員基準など、ストラクチャーやプロセスを評価の対象としている。どんなに経営努力しても、施設の大きな収入と支出は施設基準と人員基準で概ね固定されてしまうので、ケア専門職に支払える給与も自ずと上限ができてしまう。
オランダでは施設のケアのクオリティが可視化されているので、選ぶ側にとってもわかりやすい。

■たくさんのボランティア

どの事業所でも、ボランティアがたくさん活躍していた。送迎のドライバー、料理などの生活援助、車いす移動の支援、レクリエーションなど、看護ケアの専門性が要求されない「日常生活」の領域は、機能的にはすべてカバーできる。中には看護師や栄養士のボランティアもいて、専門性の高い仕事をしている人もいる。
視察した範囲内では、全スタッフの3分の1くらいがボランティアで占められているというのが一般的なプロポーションのようだ。
ボランティアには賃金は発生しないが、彼らは、仕事にやりがいを感じている。若い学生がキャリアの一環として取り組むケースもあれば、退職した前期高齢者がセカンドライフとしてボランティアに取り組むケースもある。彼らの多くが、この仕事が「誰かのため」であるとともに「自分のため」=自分にとっても有意義な活動であると認識している。人の役に立てるこの仕事が生きがいだ、と話すボンラティアのドライバーもいた。
週32時間労働というゆとりある勤務体系、最低賃金の保証などの制度もあるため、自分の時間をどう使うのか、日本よりも主体的に考えている人が多いように感じた。

イノベーションという言葉が生まれたオランダ。
この素晴らしい社会保障の仕組みは、トライ&エラーの積み重ねで少しずつ築きあげられてきた。大切なところにしっかりとお金を使い、最大公約数的に住みやすい世の中を作る。そして、この国に魅了されて集まる多民族を寛容に受け入れ、徐々に変化していく人口構成や社会情勢に柔軟に変化していく。
石橋を叩いて叩いて結局渡らない日本の現状を思いながらも、この社会変革を支えてきたのが、実は為政者ではなく、積極的に義務を果たそうとする国民の意識なのだということも学んだ。手厚い社会保障を支えるための相応の国民負担、そして助け合いの精神。誰かに要求するだけでは、社会はよくならないということを実感した。

浅川さんと後藤さんのコーディネートは本当に素晴らしかった。5日間という短い期間だったが、オランダの今の高齢者ケア・終末期ケアの現状を概観するとともに、関心のあった領域について、現地のトップランナーから現場の具体的な話を聞くことができた。みんな例外なく魅力的な人たちばかりだった。
そして視察の参加者も精鋭揃い。全行程を通じて有意義な意見交換ができ、これも大変勉強になりました。
浅川さん、後藤さん、戸塚さんはじめ、関係者の皆さん、そして参加者の皆さんに心から感謝申し上げます。

オランダは本当に美しい国。
最終日の午前中、2時間でゴッホ美術館と国立美術館を小走りに回りながら、後ろ髪を引かれる気持ちで空港に。
またぜひ訪問したいと思います。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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