【和蘭陀徇行記①】街に「溶け込む」施設の意味

カテゴリー 佐々木淳, スペシャル0件のコメント

●ナーシングホームの使命は「人生の最終段階のQOLを、いかに明るく納得できるものにできるか」
●看取り率100%=「最期になぜ病院に行く必要があるの?」
●残存機能のフル稼働には執着しない。

 

オランダの高齢者住宅は、①ナーシングホーム(要介護度中~重度向け) ②ケアホーム(要介護度軽~中度向け・42㎡~) ③高齢者住宅(自立~要介護度軽度向け・72㎡~)の3段階。ナーシングホームは、日本でいえば特別養護老人ホーム。一定以上の要介護度であると認定されると入居できる。
今日の午前中に訪問したリートフェルト(Rietvelt)はデンハーグ郊外の新興住宅街の中に配置されたナーシングホーム。150人の認知症の人(62~102歳)が、200人のスタッフ・100人のボランティアとともに、ここで暮らしている。

 

建物は街並みに自然にとけ込み、ゲートもフェンスもない。看板がなければどこが高齢者住宅だかわからない。150人が暮らす大きな建物だが、平均8人暮らし×19ユニットの住居が中庭を囲むように配置され、ユニットごとにレンガも瓦も違うので、オランダの普通の街並み(タウンハウス)に見える。

この中庭というのが、オランダ人にとっては人生の営みにおいて重要なスペースであるらしい。美しい花壇や薬草園、温室菜園は、入居者と家族、そして専門家とボランティアの協力で運営されている。車いすでも手が出せる高さのコンテナガーデンでは小さなイチゴが色づいていた。裏庭ではウサギや鶏、インコまで飼育されている。
入居者は自らの意思で入居を選択する人が多く、入居者というよりは「住民」と表現したほうがいいのかもしれない。しかし、入り口は常にオープンというわけではなく、自由に出入りできる人は限られる。「好きな時に外出できない、ここは快適な刑務所みたいな場所だ」と話す74歳の男性住民もいた。安全管理と自由の両立はどの国でも課題なのだと感じた。

ユニットでは、それぞれが20㎡の個室を持ち、80㎡のリビング、2か所のシャワールーム、4か所のトイレを共有する。居室はベッド以外の設えは自由。何を持ち込んでもいいし、壁紙を変えたりしてもいい。犬を飼っている住民もいた。献立はみんなで考え、ユニットごとに一緒に調理する。この8人の日中の生活を支援するのは2人のスタッフ。夜間は5人のスタッフで150人全員を見守る。

平均入居期間は約2年でほとんどが死亡退去。つまりここは人生の最期の2年を過ごす場所。
昨年は37人が亡くなり、全員が施設内での看取り。「なぜこんなに看取りができるのか?」という質問には、「なぜ最期に病院に行く必要があるの?」と返された。

看取りがスムースにできるのは、家族とのコミュニケーションを密にとっていること、そして老年科専門医・老人専門看護師をホーム内に配置していることが大きい。リートフェルトの運営法人Activiteは6人の老年科専門医を擁しており、この6人で法人が運営する9施設・500人の入居者の療養生活を支援する。彼らは投薬とカテーテル管理以外の積極的治療は行わない。医療行為を求められる場合は病院に行くが、病状経過を老衰として共有できる場合には、がんや肺炎であっても、そのまま施設で看取る。現状、100%が老衰として旅立っているということになる。

もう一つ、個人的に印象に残ったのが、残存機能をフル稼働させることに執着しないということ。これは人生の最終段階という共通認識があるからなのだろうか。ティータイムには、自力で歩ける人を除けば、過半の入居者が車いすで集まる。自分で歩ける人、そして歩きたい人以外は、無理に歩かせたりしない。車いすに乗せられた入居者は、歩けないことを嘆く様子もなく、にこやかにボランティアとコミュニケーションを楽しんでいる。優先順位を自分で選択できることはとても大切なことだと感じた。

ここに入居するためには7段階の要介護度のうち、重度の3段階であるという診断が必要。入居に必要な費用は月60万円くらいだが、うち自己負担は経済力に応じて0~2,200€/月。残りはAWBZという介護保険制度から補填される。地域で人気のホームだが、入居待ちは3か月から半年とのこと。

収入がなくても、こんな素敵なホームに入れるなんて素晴らしい!と思ったが、この仕組みを支えるためには当然財源が必要。この財源を確保するために、国民は収入の33~52%を納税する。年収400万円でも40%の所得税、消費税は19%(一部の生活必需品を除く)。さらに低所得者であっても所得税は課税される。改めて社会保障の充実には、全国民の理解と協力が必要なのだということを確認した。

オランダの介護保険のしくみ、看護と介護の定義など、とても面白い。
これはもう少し勉強してから改めてまとめてみたい。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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