北端の地で、先端を見る

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稚内の医療介護の専門職の方々は、気持ちのいい人たちばかりでした。

稚内市は人口3万6千人。
稚内市が属する宗谷医療圏は、京都府とほぼ同じ面積で人口6万7千人。
人口密度も、人口あたりの医師数も非常に少ない地域です。

数字だけ見ると、もっとも厳しい状況にある地域の1つなのかもしれません。
しかし、稚内の人たちは自分たちの強みをしっかり把握し、それを発揮することで、弱みを感じさせない地域を作り上げていました。

専門職の絶対数が少ないけれど、だからこそ高密度な連携を維持できること。
外部との人口対流はあまりないけれど、専門職の多くは稚内で生まれ育った地域住民でもあり、知り合いの知り合いで住民のほとんどがつながってしまうこと。
自治体のサイズはとても小さいけれど、市長から現場までの距離が近く、行政も現場のニーズに即応できること。
大きな課題を抱えているけれど、だからこそ行政も専門職も住民も、その危機感を共有し、よりよい未来を目指してそれぞれの立場で取り組んでいること。

弱みをそのまま強みに変えてしまうしなやかさ。
これは対人援助に共通する基本的なアプローチと全く同じなのかもしれません。

遠くに見えるは利尻富士。これほど晴れている日は珍しいとのこと 撮影:佐々木淳©

この街では、入院している終末期のがん患者さんが自宅に帰りたいと言えば、その日の午後には介護保険の認定調査が終了し、翌日には退院、在宅ケアがスタートできます。
都市部で療養していた人工呼吸器が必要なALSの患者さんが地域に戻りたいと言えば、市内のあらゆるセクターが主体的に協力し合い、迅速に24時間の介護支援体制を構築、無停電インフラまで整備してしまいます。

住民の住民による住民のための「オール稚内」の地域づくり。

住民たちは、人口あたり医師数が道内最低であることを理解し、医師の疲弊を少しでも減らそうと、受診のたびに医療機関や医師に感謝のメッセージを残していました。
「何かあれば病院へ」から「最期まで自宅で生活を」を選択する住民も増えています。人口3.6万人に対し、年間50人ほどが在宅で看取られているとのこと。これは人口約70万人の東京都足立区に換算すると1000人ということになります。そして、それを支えるために、在宅多職種の水平連携のみならず垂直連携(病診連携)も進んでいます。
そして市は、超高齢化した地域の医療の担い手を少しでも増やすべく、さまざまな工夫をしています。例えば、医師の開業には最大7000万円までの補助が受けられる仕組みがあります。これまでに7医療機関の誘致に成功しているとのことでした。

少子高齢化と人口減少。
地方自治体の持続可能性を担保するのは、地域住民としての主体性と行動力なのかもしれない、と感じました。

大都市東京は、その巨大な引力で全国各地から人口を吸い上げ続けています。
しかし一方で、地域の超高齢化は着実に進んでいます。
東京には、臓器別専門診療を提供する高度医療機関は数多ありますが、多疾患の高齢者を総合的にケアできる地域医療の担い手は人口当たりで見れば全国でも最低レベルかもしれません。
専門職の多くは電車で通勤し、住んでいる地域と働いている地域が異なっています。住民の多くも地域に対する帰属意識が低く、隣に住んでいる人の顔と名前もわからないというのが実情です。地域づくりに取り組め、というのは容易ではありません。
圧倒的な人口密度と物量の中で、孤立世帯は増加し続ける東京・首都圏。
僕らこそ本気で知恵を絞らないと、本当に厳しい状況に直面することになると思います。

48時間の稚内滞在では、稚内市役所、稚内市立病院、そして道北勤医協の宗谷医院を表敬訪問させていただきました。
宗谷医院さんのご厚意で、石山さんには稚内の市内をご案内いただき、その雄大な大自然と歴史、宗谷岬からのロシア領サハリン、そして再生可能エネルギー開発の最前線を見せていただきました。石山さんと中上さんには、貴重なお休みの時間に原油の香る?豊富温泉までご案内いただきました。
懇親会では非常に有意義な意見交換をさせていただきました。地域は「人」によって支えられ、作られていくのだ、ということを改めて実感しました。
貴重な機会を頂戴しました関係各位の皆様に心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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