超高齢化する巨大都市東京に、患者ニーズに最適化した救急医療システムを

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2018年10月4日、小池百合子東京都知事と、超高齢社会における医療介護をテーマに提案と意見交換をさせていただきました。
医療法人社団悠翔会理事長の佐々木淳からは、超高齢化に伴う救急医療システムの負担増と患者ニーズとのミスマッチについて指摘、大都市部の超高齢化に最適化した救急医療のあり方について提言させていただきました。

一昨年の東京消防庁の救急搬送件数は年間77万件。ここ数年、伸び続けています。
実は、東京都においては、74歳未満の救急搬送は増えていません。15歳から44歳まではむしろ減少傾向です。東京都における救急搬送の増加要因は、そのほとんどが75歳以上の後期高齢者の救急要請の増加によるものです。
今後、東京都では後期高齢者数が増加していきます。
このままだと、救急搬送件数は増え続け、救急医療システムが破綻してしまうかもしれません。

 

 

一方で、救急搬送されたケースの内訳を見てみると、実は半数以上が軽症です。つまり、119番コールの約半数は、救急搬送が必要なかったケース、ということになります。
年々増加する高齢者の救急搬送ですが、その内訳を見てみると、重症ケースの救急搬送はあまり増加していません。急激に増えているのは、軽症~中等症の救急搬送で、重症ケースは全体のわずか7分の1でした。
軽症~中等症の高齢者の救急要請が増加しているのはなぜでしょうか。
その要因を詳しく分析した調査を見つけることはできませんでした。

しかし、在宅医療の現場で、日々高齢の方々と接する中で推察するのは以下の3点です。

【1】高齢独居または高齢二人世帯で、自力での病院受診が難しく、受診手段として救急車に頼らざるを得ない。

【2】生活能力や認知機能の低下により、日常の健康管理が十分にできていない。定期的な通院だけでなく、食事や衛生管理など、生活環境の確保に課題があるケースも少なくない。

【3】不安に24時間応えてくれる窓口が119番しかない。

また、最近は、救急車が患者宅に到着しても、そこから救急車の車内収容までの時間が延伸するケースも増えてきているようです。
その要因として、高齢者・精神疾患などにより情報収集や収容に困難を要する事案が増加してきていること、頻回利用者や緊急性が低い利用者の増加による現場での観察時間の増加などが要因として上がられています。
このようなケースの多くは、緊急性や重症度が少なく、救急搬送以外の方法で対処すべきケースなのかもしれません。
もともとたくさんの病気や障害をもつ高齢者が救急病院に搬送されても、救急外来の医師には、どこがどう悪化したのかを判断することが難しいかもしれません。
また、前述の通り、後期高齢者の救急搬送には、医学的要因というよりも、社会的背景がより大きいケースがかなり含まれると思います。
たとえば救急搬送された独居の男性高齢者。
救急外来で診察・検査した結果、脱水という診断になった。点滴をして自宅に帰した。
救急医療としてはそれで正しいかもしれません。
しかし、この男性はなぜ脱水になったのでしょうか。
生活力が低下し一人で買い物にいけない、認知症やうつのために適切な水分管理ができない、服薬管理が難しくなってきていて、以前に処方されていた利尿剤を不適切に服用していた・・・いろいろな原因が考えられます。
生活背景を考慮することなく、点滴をして自宅に帰しても、この男性は同様のことを繰り返すことが予想されます。
この人にとっての本質的な解決は病院での点滴ではなく、生活支援の体制づくりのはず。しかし、忙しい救急外来でその人の生活環境まで思いを馳せるというのは難しいかもしれません。また、それを思ったとしても、休日や夜間に受診した高齢者を、生活支援のための社会資源につなぐところまで救急医療に要求することはできません。
どうすれば、このような高齢者の「真のニーズ」に応えることができるでしょうか。

「病気を診ずして病人を診よ」のさらに向こうに

私たちは、「患者を病院に運ぶ」のではなく「医師が生活環境にアウトリーチする」というのが最も効果的ではないかと考えています。
その救急要請の本当のニーズは何だったのか、それを把握するためにはそのために、生活環境も含めた診療が必要だと思います。
病気や障害とともに生きる人たちの生活や人生の質は、その人の環境因子に依存します。
これはICF(国際生活機能分類)に基づく生活モデル(Social Model)の考え方です。「病気を診ずして病人を診よ」という有名な言葉がありますが、フレイル(脆弱性)の目立ちはじめた高齢者においては、「病人」のみならず、その人の生活環境も一緒に診ることが重要なのだと思います。
緊急性と重症度が低いと予想されるケースについては、救急搬送ではなく、医師が自宅を訪問するという選択肢があってもよいのではないでしょうか。
医師が自宅を訪問することで、その人が119番に託した本当のニーズをキャッチすることができる可能性が高くなると思います。その人の本当の課題がキャッチできれば、根本的な解決につながり、救急搬送を繰り返す人は少なくなるでしょう。
また、支援が必要な人を、救急病院以外の適切な社会資源につなぐことが可能になります。継続的な医学管理が必要なのであれば地域のかかりつけ医に、生活に支援が必要であれば地域包括支援センターなどの行政サービスに、あるいは地域の中で何かを少し工夫し合うことで解決できる問題もるかもしれません。誰かとつながることで、その人がより安心できる療養環境を作ることができるはずです。

撮影:佐々木淳

フランスにはSOSメドサンという往診サービスがあります。
住民はコールセンターに電話をすると、その重症度や必要性に応じて、近くに待機中の医師が往診するという仕組みです。民間サービス(NPO)としてスタートした事業ですが、現在では、公的救急医療を支える1つのアームになっています。
医師が初診患者を在宅で診る場合、当然、診断や治療の手段は自ずと制約されます。そしてそれに伴うリスクについては十分考慮する必要があります。
しかし、救急病院でその人の生活状況がわからない状態で、多疾患の高齢者の診断・治療することにも当然、リスクを伴います。

どちらのリスクを選択するのか、それは各個人が判断すればいいのかもしれません。
そして、在宅での診断技術・治療技術は日々進化しています。一定レベルの診療品質は担保されていると考えてよいと思います。
もちろん、在宅での対応が困難であると判断されるのであれば、往診した医師が、その場で病院受診や救急搬送を手配すればよいのです。往診医が在宅での状況をきちんと申し送れば、救急外来の医師は、生活状況を勘案した医療を提供することができるはずです。
私たち医療法人社団悠翔会は、在宅療養支援させていただいている患者さん(連携している在宅クリニックの患者さんを含む)に対し、法人全体で年間4万件の電話対応、1.2万件の臨時往診を行っています。
私たちは、この「往診対応能力」を地域の後期高齢期の住民に広く開放することで、救急車の負担を減らすことができるのではないかと考えています。

例えば東京消防庁の年間77万件の救急搬送のうち、後期高齢者は約24万6千人。
うち23区内の住民は人口換算で約17万人と推計されます。もし、1.7万件を往診でバックアップすることができれば、後期高齢者の救急搬送を10%削減できることになります。
これは救急車両の運行コスト、救急医療機関での医療費の削減、必要性の低い暫定的入院の抑制などにより、行政コスト・社会保障費の削減にもつながるはずです。
持続可能な救急医療システムの確立と、高齢者の安心感と。
医師によるアウトリーチ、初診での往診という選択肢が身近になれば、それを社会にとっても、患者にとっても幸せな未来に近づくことができるのではないでしょうか。


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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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