PCR検査拡大について、あの先生と対談しました

佐々木淳
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「もやもや疑問に白黒つけろ!」
サンデー毎日にけしかけられ、医療ガバナンス研究所の上先生と誌上で対決?させていただきました。

サンデー毎日2020年9月6日号

メディアの多くはPCR検査の拡大を主張し、一部自治体は「いつでもだれでも何度でも」検査ができる体制を整備しつつありますが、私はPCR検査のやみくもな拡大は、偽陽性(感染していないのに検査結果が陽性になる)、偽陰性(感染しているのに検査結果が陰性になる)、そして費用対効果の3点で慎重であるべきと感じています。
主にこの3点について、上先生に率直に投げかけてみました。

PCR検査の偽陽性問題

PCR検査の偽陽性については検査の特性上、非常に低いとされています。しかし最大で16.7%、中間値が0.8~4.0%であったとする報告(プレプリント)も存在します。もしこの報告が正しいとすれば、新型コロナに感染していない人のうち、100人に1人から25人に1人は、誤って陽性と診断される(コロナと誤診される)可能性があるということになります。これは有病率の低い今のような時期には、かなりまずい状況を生み出します。実際の感染者は1000人に1人もいないのに、25人に1人の検査結果が陽性になる、ということになれば、コロナとして隔離されている人の大部分が実際にはコロナではない、ということになります。「軽症者が多い」のではなく「本当は感染していない(検査結果が偽陽性だった)」という可能性もなくはありません。これは医療現場のみならず地域経済にもより一層の混乱を招くのではないかという懸念をお伝えしました。
これに対し上先生からは、JAMAの見解を引用された上で、現時点ではPCR検査の多くは特異度が100%であり、偽陽性率は限りなくゼロに近いという指摘がありました。米国では当初不適切な検査キットが出回り問題になったこともありましたが、検査精度の向上により解決しているということであれば、これはもはや論点ではありません。

PCR検査の拡大による悪影響は

私のPCR検査への最大の懸念は、PCR検査が陰性であることを「非感染証明」と考えている人も少なくないことです。
PCR検査の感度の限界については、よく知られています。その感度は発症後に最大となりますが、それでも70~80%程度、その前後だと感度はさらに低下します。検査結果が陰性だった人が、その結果で「自分は感染していない」と考え、行動制限を解除することで、逆に感染拡大を招くのではないか。もし感染しているかもしれない、と思い検査が必要と判断される状況であれば、検査結果に関わらず一定期間の自己隔離をすべきではないかという意見をお伝えしました。
これに対し上先生からは、偽陰性者による感染拡大のリスクがある一方で、検査を拡充しないことで感染者を十分に同定できないことのほうが感染拡大のリスクではないかとの指摘がありました。
確かに新型コロナが発症前から感染力を持つことを考えると、エピセンターになっている地域では「面」で検査を実施すべきだと思います。また、医療介護専門職や介護施設入居者などは定期的な検査が感染拡大を抑制するという報告もあります。ただ、いずれも感染拡大状況や日常の接触状況などによって検査対象地域や職種は限定すべきで、無作為な全数調査が有意義というわけではないという結論で一致しました。

PCR検査拡大の費用対効果を考慮すべきでは

費用対効果も重要な論点ではないかと考え、提起しました。今年6月にLANCETに掲載された論文によれば、マス・スクリーニング(住民に対してPCR検査を毎週5%ずつ実施)しても再生産率(一人が何人に感染させるかという指数)を2%しか下がらないけれど、感染者の接触追跡と隔離(つまり日本でやっているクラスター対策)をきちんとやれば再生産率を64%も下げることができるとしています。
人口1400万人の東京でマス・スクリーニング(毎週5%ずつ検査をすると仮定)を実施しようとすれば、1週間で70万人・1日10万人の検査が必要です。一人あたり1000円で検査できたとしても1日1億円。これだけのお金をかけても再生産率の低下はわずか2%。
であれば、接触追跡を行う保健所機能の強化と隔離にしっかりと予算を確保すべきではないかという意見をお伝えしました。
上先生からは、GoToキャンペーンだけでも1兆7千億円もの予算が組まれている。予算がないわけではなく、PCRと保健所機能のどちらを優先すべきか、という議論ではないと指摘されました。
2時間にわたる対談で、誌面には収まりきらない議論がありましたが、新型コロナに対して自分が感じていた疑問を改めて整理することができました。編集部からは対決を期待されていたようですが、必要な人に必要なタイミングで検査が実施できる体制を確保すべき、特にキーワーカーや低所得者に対する無料検査を拡充すべき、など現状に対する課題認識の多くが共通していることがわかりました。
新型コロナに対する対策については、何が正しいのか、まだ十分な結論は出ていない状況だと認識しています。引き続き、世界の経験から学びながら、私たちも自分たちのフィールドからきちんと発信してきたいと思いました。
サンデー毎日、9月6日号をぜひご一読ください。
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医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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