日本の認知症ケアを、中国へ。世界へ。

カテゴリー 佐々木淳0件のコメント

日中認知症ケア実践事例共有フォーラム2018(Sino-Japan Shared Forum on Practical Cases of Cognitive Disease Case 2018)、いよいよ明日、2018年4月10日に中国にて開催されます。
山国さんの「ケアニン」、下河原さんの「認知症VR」とともに、日本の認知症ケアのコンセプトの変遷を中国にお伝えしてきたいと思います。

 

認知症を失智老人と表記し、Cognitive Disease(認知疾患)と英訳する中国。
認知症は疾患ではなく状態であるとする日本とは、定義そのものが違うのかもしれません。

かく言う日本でも、かつて認知症を「痴呆症」と表現していました。
しかし、これは明らかに差別的な言葉。認知症ケアの基本である尊厳の保持とは相容れません。「認知症」という表現が使われるようになったのは2004年からです。

 

加齢に伴い認知症の人の割合は増えていきます。
年代別に見てみると、90歳前後を境に、認知症の人のほうが多くなっていきます。
高齢化に伴って増加する高齢者の認知症。これは果たして疾患(異常)なのか。それとも老化に伴って身体機能が低下するように、老化に伴う脳の機能の変化と考えるべきなのか。

同年代の過半数が疾患(異常)というのは、異常の定義そのものに反するのではないか、というのは大井玄先生(東大名誉教授、公衆衛生学)の指摘。少なくとも根本的な治療法が確立されていないこと、身体機能の低下を伴っていることを考えれば、医療というよりもケアの役割が大きいことは言うまでもありません。

 

2060年、日本では人口の13%が認知症とともに生活することになると予想されています。この「多数派」を医療保険+介護保険だけで支え切ることができないことは明白です。
認知症を防ぐ研究は進めるべきです。しかし、どんなに脳トレを頑張っても、「老化」という生理現象から逃れられない限り、長生きすれば誰もが認知症になります。
認知症があっても生活が継続できる、人生の主人公として最期まで生き切れる。そんなことが当たり前の「新しい社会」をつくる、という発想が必要なのではないでしょうか。

 

そして日本は少しずつ、そんな「新しい社会」への歩みを進めています。

2005年から始まった認知症サポーター制度は、認知症の当事者やその家族の応援者を全国に多数養成しようという取り組みです。現在、9,835,590人(日本の人口の約8%)もの人が認知症サポーターとして認定を受けています。

2007年には認知症フレンドシップクラブが発足、「RUN伴」が始まりました。
認知症の人と接点がなかった地域住民と、認知症の人や家族、医療福祉関係者が一緒にタスキをつなぎながら日本全国を縦断し、認知症に対する正しい認識の啓発を進めています。

2013年には「認知症カフェ」への国の財政支援が開始されました。
認知症の人やその家族が悩みを共有できる場を創るべく、NPO法人や私企業などさまざまな運営主体が積極的に取り組み、2016年度は、41都道府県280市町村にて655カフェが運営されています。

 

そして2014年10月。
“Nothing about us, without us.(私たち抜きに、私たちのことを決めないで)”
当事者が行動を起こします。日本認知症ワーキンググループの発足。これは「認知症の人の、認知症の人による、認知症の人のための会」。同年11月には安倍首相との直接対話も実現し、首相は「認知症とともによりよく生きていただけるよう支援していく」、「政府一丸となって生活全体を支えるよう取り組む」と今後の施政方針を約束します。

求めているのは「ケアしてもらう」ことではなく「自分らしく生活できる」こと。そしてそのために必要なのは「サポーター」ではなく「パートナー」であること。
認知症当事者の発言に呼応するように、医療と介護の連携に主軸が置かれた地域包括ケアシステムという概念は、要介護高齢者のみならず、さまざまな人がさまざまなつながりの中でともに暮らす「地域共生社会」という上位概念に吸収されていきます。

 

もちろん概念だけで、新しい社会が創れるわけではありません。これまでの取り組みにもたくさんの課題があります。しかし、批評だけでは世の中は前には進みません。

高齢化率が45%で均衡し、国民の7人に1人が認知症とともに生きるこの国の未来には、人口増加時代の常識や経験は通用しません。思い込みや既成概念をすべて捨て去る覚悟を持って、「新しい社会」をみんなで考え、行動する時が来ているように思います。

日本でもぜひ開催したいこのシンポジウムをコーディネートしてくれたのは日中福祉プランニングの王 青さん。国立大学の大講堂という素晴らしい会場、中国側のプレゼンターも含めかなり斬新なプログラムで、明日は政府関係者や業界のキーパーソンも一通り参加されるとのこと。

何が起こるのか、かなり楽しみです。


avatar
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です