佐々木淳

老衰か、それ以外か

2019年5月22日

慢性呼吸不全で在宅酸素療法中の90歳男性。
超低体重で誤嚥性肺炎を繰り返していた。

支援を開始した時、身長168㎝、体重38キロ。BMIは13.4。
絞り出すように声を出し、疲労のために会話は1分以上続かない。そして、わずかな移動でも強い息切れ。
食事は頑張って摂取しているが、体重は減っていく。
これは老衰、仕方がない。
それが前医の見解だった。

確かに高齢、超やせ形、そして寝たきり。
基礎代謝量を計算すると820kcal。
リハビリの努力を加算して、運動代謝を加えたとしても、せいぜい1000kcal。
1300kcalも食べれば十分なはず、と思うのは普通かもしれない。

しかし、代謝異常があるわけでもない。
食事は摂取できていて、便秘はあるが、消化不良があるわけでもない。

これは純粋に食事量が少ないのではないか。

そう考えて、本人と相談し、エンシュアHを1日1缶(375kcal)追加することを1か月間、試してみた。

すると、体重の減少が止まった。

さらにもう1缶、飲んでみることにした。
すると、体重の増加が始まった。

ここ1年の栄養治療で体重は14キロ増加。
2か月に一度は起こっていた肺炎・発熱はなくなり、完全な寝たきりから、排泄はトイレで、そして食事も椅子に移乗して食べることができるようになった。
声にも力が出てきて、笑顔で会話が継続できるようになった。
アバラが出ていて聴診さえ難しかった彼の体幹は、いまはしっかりと肉に覆われている。

老衰などではない。
単なる飢餓だったのだ。

食べていれば大丈夫、というものでもない。
特に慢性疾患を持つ高齢者は、健常な成人よりも代謝が亢進しているケースが少なくない。
呼吸不全、心不全、腎不全、肝障害、膠原病、悪性腫瘍、感染症、外傷・手術・・・いずれもエネルギーを消耗する。これらは通常、「ストレス係数」という形で基礎代謝に乗ずる。

特に慢性呼吸不全場合、経験的には1.5倍から2倍のエネルギーが必要になることも少なくない。さらに、慢性呼吸不全の場合には、肺炎や頻回の発熱を伴う。これらは当然ながらストレス係数を高めるし、さらに肺理学療法などを行う場合には、その分のエネルギー(活動係数)も勘案しなければならない。

ちゃんと食べているのに体重が減る。
これは老衰ではなく、相対的なエネルギー不足だ。
高齢者施設で提供される食事は、1200~1600kcalくらいのところが多いと思うが、これではエネルギーが不足する高齢者が一定の割合で存在することを意識しておくべきだと思う。

なんて偉そうなことを書いている僕のランチはこんな感じ
こちらは筋トレ+減量中です。

おまけ

■基礎代謝エネルギー消費量(BEE)の計算式(ハリス・ベネディクト)
男性BEE=66.47+[13.75×体重(kg)]+[5.0×身長(cm)]-[6.75×年齢]
女性BEE=655.1+[9.56×体重(kg)]+[1.85×身長(cm)]-[4.68×年齢]
ここに「活動係数」と「ストレス係数」をかける。

■活動係数
1.0~1.1 (寝たきり)
1.2 (ベッド上安静)
1.3 (ベッド以外での活動)
1.5 (あまり動かない)
1.7 (普通の生活)
1.9 (活動性が高い)

■ストレス係数
手術:1.1(軽度)、1.2(中等度)、1.8(高度)
がん:1.1~1.3
感染症:1.2(軽度)、1.5(中程度)
外傷:1.35(骨折)、1.6(頭部損傷でステロイド使用)
熱傷:1.5(体表面積の40%)、1.95(体表面積の100%)
体温:36℃から1℃上昇ごとに0.2増加


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