佐々木淳

発展的なあきらめ

2019年4月2日

「発展的なあきらめ」

今日はNPO法人きせきの内海 光雄理事長のコーディネートにより、心より尊敬する中野玄三さんとタンデム講演の機会をいただいた。これは、その中野玄三さんのお話の中で、もっとも印象に残った一言。

 

ALSとともに、文字通り「しなやかに生きている」中野さん。

 

人工呼吸器を活用しながら、喉頭全摘で食べる機能と楽しみを確保し、生活環境を整え、会社を立ち上げ、今はALSの仲間たちのために全国を奔走されている。ICF的健康観の実践モデルとして、僕の講演でもご紹介させていただいている。

 

そんな中野さんがALSを発症したのは25年前。
全てが思い通りの人生を謳歌していた39歳の時だった。

 

身体の自由を奪われていく。
人生が予期せぬ方向に進んでいく。
これからどうなっていくのかという不安と恐怖。
そして絶望と挫折が怒りに変わっていく。

 

そんな中、中野さんが人生に輝きを取り戻すことができたのは、人々との出会いを通じて「幸せに生きる=自分らしい生活をする」という目標を見つけることができたからだった。

 

身体の機能はその後も低下を続けていく。
しかし、このターニングポイントを契機に、中野さんの心は穏やかさを取り戻し、生活の質は改善していく。

 

病気は治らないと解決しないが、障害は困らないようにすればいい。
そう考えると、やるべきことが明確になっていく。
生活を取り戻すための人工呼吸器と24時間介護の体制づくり、食事などの日常生活を通じたリハビリ、そして関わる人々とのコミュニケーションと信頼関係。

 

「患者」ではなく「生活者」としての毎日を取り戻すと、周囲との関係性もおのずと変化していく。
病人扱いされなくなる。「無理しないでください」から、「頑張ってください」「仕事もしてください」に。
そうなると、不思議なことに、病気の進行が止まり、機能の一部はむしろ改善しているという。

 

「健康であることは幸せの必要条件かもしれないが、絶対条件ではないことをALSが教えてくれた。」
そう語る中野さんは、自分の生活を取り戻し、今は同じ病に苦しむ全国や世界の人々のために発信を続けている。会社経営や団体役員に加え、教育や政策提言・患者支援など「健康だったときよりも充実している」と笑う。

 

家族や仲間に支えられながら、経営者として社員を養いながら、社会課題解決に取り組む。
つながりの中で、自分自身の生きる意味をはっきりと見い出し、できることを積み重ねていく。

 

中野さんは、今回の講演のために、45分間のプレゼンテーション動画をご自身で作られていた。写真や動画、そして合成言語を組み合わせ、素晴らしい内容だった。
講演の冒頭、「ALSのマイナスのイメージを壊したい、ALSでも自分らしい生活ができることを伝えたい」と中野さんはおっしゃっていたが、中野さんの生き様そのものが、素晴らしいプレゼンテーションだと思った。

 

続いて、僕の講演。
中野さんのプレゼンが実践編だとすれば、僕のプレゼンは理論編。

いつか必ず治らない病気になって障害を持って死んでいく。そんな人間の一生を、最期まで幸せに生き切るために絶対に必要だと僕が思うのは、心身の機能や構造だけにこだわらず、生活や社会参加を充実させていく、生きることの全体を健康にしていくというICF(社会モデル)の考え方。

そして、厳格な医学管理よりも「生きがい」こそが(特に人生の後半においては)生物学的な観点からも健康ために重要であること、そして「生きがい」とは「つながり」と「役割」の中から生まれてくることなどをデータとともにご紹介させていただいた。

その後、中野さんとの対談へ。

中野さんのプレゼンテーションが質問の余地がないくらいに網羅的で完成度が高かったので、僕からはあまり気の利いたキャッチボールはできなかったのですが、そこにオリィ君(吉藤健太朗君)が登場。

彼は分身ロボットや眼球運動で操作できる車いすなどの斬新なプロダクトで、障害の概念そのものを変えつつある天才科学者だ。失われた身体の機能に固執するのではなく、本来その人が必要としている機能をどう確保するか、という極めて合理的な発想で、新しい形の障害者支援を提供している。

テクノロジ―が人の機能を補完する、あるいは強化することで、障害が障害でなくなり、新しい生活や人生の可能性が広がる。そして障害を理由にネガティブな選択を重ねる必要もなくなる。
オリィ君の原動力は、不登校の経験。彼の強さ、そして使命感は、彼自身も当事者であったことによるのだと思った

12時に集合し、気がつくと夜の8時を回っていた。
多くの障害当事者、家族や支援者も参加されており、誰もがフラットに意見交換できる素晴らしい会だった。

 

2国民の28%が高齢者、7.4%が障害者。
誰もがいつか必ず当事者になる。

 

幸せに生き切れる国であるために、日本はどうあるべきなのか。
もう答えははっきりとわかっている。
あとは、その目標に向かって進んでいくだけ。
中野さんはプレゼンテーションの中で、こうおっしゃっていた。

 

「ほんの小さな積み重ねが、大きな変化に変わる。」

 

編集部より:この講演会の様子は、こちらでご覧になれます。


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